常盤平蔵のつぶやき

五つのWと一つのH、Web logの原点を探る。

世界の終わりに怪物になったら 「Sweet Home ー俺と世界の絶望ー」を観た

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○終末+モンスター=?
全人類が実際にコロナウイルスの厄災に見舞われている現在、いわゆるゾンビもの、終末ものを観ると画面の向こうでも切羽詰まった人達が右往左往しており、なんとなく親近感と共に、もっと酷い状況を見て、まだこちら側はマシかなと思う。
しかし、こちら側の世界も四度目の緊急事態宣言発出中であり、発出される度に、その緊急度はだだ下がり、日経新聞の見出しにも「変わらぬ朝」と書かれる始末だが、国家(的な)規模の大イベントが近づいており否が応でも期待が高まる(なんの?)

 

 

 

 

○なぜこのドラマを観る気になったか?
実は、そういう世紀末の気分を共有したいからこのドラマを観ようと思ったわけでは無い。
その理由を説明する前に、これまでも自分が選んだ本やゲーム、映画について、何故これを選んだか?について必ず書いていると思う。
なぜそのことを書くかというと、それが自分自身を映す鏡だと思うからだ。人間一番理解できないのが自分自身についてであると思う。自分が、自分を理解するための手掛かりになると思い、このブログではそのことについては必ず書くことにしている。
そこで、このドラマを選んだ理由だが、ある方のツイートである。その内容は私自身もうまく説明できるかどうか自信がないが、簡単に言うとこういう意味だと思う。すなわち、出てくる男のキャラクターにBL的な要素を見つけたから見ろと勧めていたのである。
その部分を知りたいと思い見たのだが、なるほどなんとなくではあるが、すこしわかった気がする。
話の内容にはLGBT的な部分は無いと言いきっていいと思う。その上でどのキャラとどのキャラをスラッシュで繋ぐかという力学がどのような要素によって生まれるのかというのに興味を持ったのである。
なんでそこに興味を持ったのか?と聞かれても……実は困る。自分の中にLGBT的なものがあるかどうかを知りたいわけでは無い。
まさにこのような点描の積み重ねが、鬼太郎が人間に取り憑いている妖怪を確定するのにその人間に質問してその答えに応じる点を紙に打っていき、最後に妖怪の姿を確定させるように、自分自身の姿を映し出す集合になるはずだと考えているからに他ならない。
余談だが、この妖怪似顔絵システムは昔あった満点パパという番組で司会の南紳助がタレントの子供に質問して似顔絵を描いていく様子から思いついたのでは無いかと思うが真相はわからない。

◯眼鏡+眼鏡=?
注目するキャラクターは「神父」と「医学生」である。その眼鏡の奥の目に注目と言うことだったのだが、観終わってみていろいろと思うところがあった。
韓国ドラマと言えば、一時期凄いブームがあって、世の中の特に高齢のご婦人たちが熱心に見ていたこともあったが、今や若い人にも普通に楽しまれておりK-POPも世界中で大人気である。
今回観たNetflixオリジナルドラマも、CGや特撮を駆使して見たことのない映像を見せてくれている。しかし、やはり一番ドラマを面白くしているのはキャラクターである。みんな本当に「癖がすごい」。
主人公が一番無味無臭な感じだが、実は理不尽な暴力を受けており最も闇が深い。しかし、それ以外に出てくるキャラもそれぞれが闇を抱えている。それもそのはず、このモンスター化する切っ掛けとなるのはウイルスとか改造という「科学的なもの」ではなくその人の持つ「欲望」なのである。
この設定を面白いと思えるかどうかが、このドラマを楽しめるかどうかの分かれ目になると思う。その人の持つ「欲望」が肉体を変貌させ、最終的には理性の無い欲望の塊、権化となる。そうなったらもう無敵なのだ。欲望というのは不死なのである。
考えてみれば当たり前で、本当に走り出した欲望というのは肉体の死など眼中にない。肉体は滅んでも欲望は死なず、である。例えば酒を飲みたいとか、ヤバい薬が欲しいと言う欲望は本気で走り出したら肉体が死に向かっていても求めることを止めない。我々の世界のルールでは肉体が死ねば、残念ながらその肉体に寄生している状態の欲望も消え去る。しかし、このドラマの欲望は肉体を滅ぼしてもなお、純粋な欲望の化身として地上に残り続ける。
一応ドラマ上のルールとして、ゴールデンタイムというものがあり、モンスターになる兆候が現れてから、完全に理性を失いモンスターになるまでの間であれば殺すことが出来るという事になっている。
しかし一方で、モンスターとしての力を上手くコントロール出来る存在も現れる。その辺までは、これまでの漫画やアニメ、映画でも描かれているので、その要素が、それぞれのキャラクターの状況と絡み合うだけでも面白くなりそうなのはある程度想像が付くと思う。
しかし、最初の注目キャラである眼鏡二人は、両方ともモンスター化しない。しかし、その二人の持つ欲望はモンスター化する素質十分だと私には見えた。日本的な真面目さで観てしまうと「ええ!?」とか「なんで?!」とか思ってしまうことが多々出てくるが、キャラの濃さとそのキャラだから起きる化学反応を楽しむことがこのドラマを見る為には必要だ。
最初から眼鏡二人に注目してみていたので、そういう方向に視点が行ったのがよかったのかも知れないが、それ以外にもヤクザや消防士(女)、雑貨店の夫婦、幼稚園の園長、足の不自由な退役軍人、余命宣告された病人と介護士(女)、子供を交通事故で亡くした母親など、様々な欲望を抱えたキャラクターが生存を懸けてぶつかり合う。

○Sweet Home?
一つだけしっくりこなかった点は、タイトルがなぜ「Sweet Home」なのかだ。日本向けにローカライズする際に、多分それだけだと伝わりにくいと考えて、サブタイトルとして「俺と世界の絶望」みたいなのが付いているのだと思う。
舞台になっているのはマンションであるが、韓国では日本みたいに地震も無いので、それなりの高層建築だ。しかし、内部の廊下や部屋の様子などの画面に映っている絵を見ると日本の「団地」のそれである。
そこから推測するに、日本人にとっても高度経済成長と「団地」というのは一つのノスタルジーである。韓国の人たちにとってもSweet Home=愛しの我が家としての「団地」なのではないかと言うのが私の解釈だ。