常盤平蔵のつぶやき

五つのWと一つのH、Web logの原点を探る。

面白いという言葉では言い表せない面白さ  「鳩の撃退法」(上・下)を読んだ

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2024年はじめの(ブログ向け)読書(しかし既に3月)

2024年も既に3月である。月に三本ブログを書くという目標も、そもそもそんな目標があったのか?と言わんばかりに全く達成できていない。そして既に3月もほぼ中旬である。今月もゼロのままで終わる訳にはいかないと思い、毎日下書きのファイルを開いているのだが、書いては消しを繰り返して全然進まない。それぐらい今回読んだ(既に読んだのは二ヶ月ぐらい前のことになっている)『鳩の撃退法』の面白さを書き表すことが難しい。

以前のブログに同じ著者の『永遠の1/2』についての感想を書いているが、2023年にそれを読み終わったあとでブログに感想を書いたあとも止まない強い興奮の勢いで、同じ著者のその他の本を古本新本問わず集めまくってひとまず本棚に並べておいた。その時は集めるだけでひとまず満足していた。今回読んだ『鳩の撃退法』ももちろんその中にあったのだが、まさに『鳩の撃退法』というタイトルが何か得体の知れないなにかを感じさせ、逆にその得体の知れなさが、読み始めるきっかけを求めていたのかも知れない。

単純に本が上下に分かれている上にそれぞれがそれなりのぶ厚さを持っていることに、読み始めて読み通す勇気が湧かなかったというのもある。それに関しては23年に橋本治の「完本チャンバラ・時代劇講座」を読み通した事が大きいかもしれない。以前図書館で借りて、ざっと飛ばし読みしたものを、昨年文庫本二冊で復刻されていたのを見つけて読み始めたら面白くてサラッと読み切ってしまった。これならある程度のボリュームでも寝る前のちびちび読書で読み続けられると自身がついたと思う。

文庫本カバー見返しに著者の経歴が書いてある。まず『永遠の1/2』は「1983年に第七回すばる文学賞を受賞」とあって、『月の満ち欠け』は「2017年第157回直木賞受賞」とある。そして『鳩の撃退法』は「2015年第六回山田風太郎賞受賞」作だったので『月の満ち欠け』より先に書かれた本ということだ。

『月の満ち欠け』は、死んだ人が生まれ変わっていくという設定が面白くもあるが、一方でその理屈のない現象はオカルトでもあるので『永遠の1/2』のリアルで地を這うような手触り感とはちょっと異なる。しかし、今回読んだ『鳩の撃退法』はどちらかというと『永遠の1/2』に通じる物があると感じた。

 

 

 

tokiwa-heizo.hatenablog.com

 

本を読み始めるきっかけはどこにでもある

2024年最初の読書として『鳩の撃退法』を本棚に並んでいるその他の佐藤正午の本の中から選んだのか?にはちょっとしたきっかけがある。それについて少し書くことにする。

昨年の10月頃、押し入れの中に溜まっていたガジェット類(ガラクタともいう)を売り払うためにハードオフに持っていこうと思っていたが、近所にゲオがあることを思い出した。ちょうどアップル製品だと買取額が20%upのキャンペーンもやっていたので、ここなら自宅から自転車でも来られるなとおもい、売るときのことを考えて箱や、製品保護のためのフィルムまでとっておいたMacBook(もちろん“トラックパッドは壊れていない”)とiPhone14Proを買ったことでお払い箱になったXSをIKEAの青と黄色のバッグにいれて持ち込んだのである。

2023年11月の最終の日曜日午後、ゲオのカウンターにいた彼女は事務的な口調で買い取りに関する注意事項を暗唱した。私はその声を半分上の空で聴き終わると、査定結果は後日でもいいよ、とブックオフだと普通のやり取りの発言をした。いえ、今日でないとダメなんです。そうでなければお持ち帰り下さい、と急に緊張感のある注意喚起を促す声になった。えっ?と思って改めて彼女の顔を見た。ショートカットの黒髪の下に妙に白い顔がありそこにある二つの目がこちらを見ていた。今日中に査定から支払いまでを完了しないとダメだと言うことを淡々と説明してくれた。なんとなく、これまでに買い取ったものを売ってしまって後からトラブルにでもなったのかなと想像したが、それはおそらく店の別の人で、彼女自身がそう言うミスをした訳では無さそうだなと思った。わかりました。じゃあ査定が終わる頃に戻ります、と言うと終わったらお知らせすることも可能ですという。携帯の番号を教えて下さいと言うので、0X0……と暗唱しようとすると、一瞬慌てた様な目の動きを見せた後に小さな紙と胸ポケットに刺さっていたボールペンを目の前に置き、こちらに書いてくださいと言った。

実際の会話はちょっと異なるのだがだいたいこのような感じで進んだ。途中を端折って結論から言うと、売ったお金をゲオでしか使えない「ルエカ」というカードにチャージしてもらった。なぜかというと現金でもらうより更に10%ぐらい割増になることがわかったからである。とはいえゲオの店内にゲームとかその他AV機器みたいなものしかないので、それでどのぐらい使えるか不安になったので、レンタル料としてもつかますよね?と先程の彼女に聞くともちろん使えますといわれた。そこで、店内にどんなソフトがあるのかをブラブラと見回っているときにレンタルのためのパッケージケースが並んでいる棚で藤原竜也(津田伸一)の鋭い眼光と出会ったというわけである。その時はまだどんな内容なのかはよくわからなかったが、とりあえず映画を見る前に原作を読む派なのでまずは2024年の最初の読書として「鳩の撃退法 上」を本棚から引っ張り出して毎晩読むことにしたというのが読み始める前までの話である。

 

 

 

 

結局映画は見てない

とにかく映画を見る前に原作を読んでおく派なので、ましてそれが佐藤正午の作品であれば読まない訳にはいかないという理由で読み始めたが、なんだろう、最初はいまいち何の話なのかよくわからない所が導入部になっているという変化球(?)なところが味噌だ。冒頭に出てくる家族が失踪するわけだけど、それを追いかけて進むと思っていたストーリーが、その次に出てくる作家(津田伸一)によって語られるストーリーなのである。

 結果として作者である佐藤正午は、作家津田伸一の視点からこの物語を書いている。しかし津田伸一も作中人物なので、津田伸一の行動の客観的な描写をしているのは佐藤正午だ。ここには作家・津田伸一としてのキャラクターが詳細に描写されており、それは作者・佐藤正午は別の人間としてちゃんと存在していると感じられる。それは映画では役者(今作では藤原竜也)が演じているため、画面で観たときには、自ずと確固たる人格がそこにあるのは自明のことのように思われるが、読書の中で架空のキャラクターに創作させ、その物語を劇中の作家だからこそ書く内容の話に書き上げるというのは並大抵のことではないと思う。

 

読後に「書くインタビュー」も読み始めた

 「鳩撃」を読み終わって、またしても強い興奮を覚えたので、本棚から次の本を読もうと考えて「書くインタビュー」の1から3も買ってあったのを見つけてそれを読みだした。冒頭一人目のインタビュアーがわずか数通のメールやりとりを行って脱落する展開に度肝を抜かれた。二人目のインタビュアーは、佐藤正午からのカウンターパンチをくらいながらも、なんとか続けて質問を投げ続けることに成功し、鳩撃執筆前の状態の著者の姿を語らせることに成功している。

二人の往復書簡を読んでいるうちに、作家・佐藤正午がどのような方法で小説を書いているのかが浮かび上がってくる。もともと雑誌連載時の副題に「小説の作り方」というのがあったらしいので、それがこのインタビューの大きな目的なのは当然だが、それを作家からの厳しい(もちろん自分にも厳しい)回答を積み重ねることで詳細を書かせているこのインタビュアーの仕事は大変素晴らしいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

新作「冬に子供が生まれる」も出た

折しも新刊「冬に子供が生まれる」が直木賞作「月の満ち欠け」から七年ぶりに出版された。自分が注目している作家の新刊を買うチャンスが巡ってくるのは貴重(前回新刊をハードカバーで買ったのは原遼の「それまでの明日」を八王子二仕事でいったときに買ったのを思い出す)なので吉祥寺のジュンク堂で探したらなんと「サイン本」があったので一も二も無く購入した。しかし、まだ読んでいない。まずはもう一度津田伸一に会いたいとおもって「5」を手に取っている。