常盤平蔵のつぶやき

五つのWと一つのH、Web logの原点を探る。

ユーラシア大陸の地平線に陽が沈む(25回)〜 中国に来てほぼ三週間が過ぎた

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地上21階の窓から
前回の更新からまただいぶ時間が経ってしまった。朝五時に起きて移動した先のホテルでまた、仮の住処を手に入れたわけだが、その部屋は地上21階だった。日本だとタワマンでも買わない限りこんなところで毎日寝起きする生活というのは出来ないと思うので、まずは貴重な体験として楽しもうと思っている。このホテルの21階は最上階であり、朝飯のビュッフェやジム、ランドリー、テラスなんかがあり、全てこの階で事が足りてしまうので大変便利だ。唯一困るのは、出勤時に地上まで降りなければならないが、朝ごはんでこの階に上がってこようとする他のお客さんのためにエレベーターが大変混雑するという事だろう。ここのエレベーターも2機しかないので、どちらも来ないと全く降りる事ができず、朝食を食べ終わった人たちとともにイライラしながら待つ事になるし、いざエレベーターに乗っても、途中の回で降りる人が沢山いると各駅停車状態になり、なかなか一階に辿り着けない。
一階の玄関の前には迎えの車が来ているのでそれに乗るだけで、会社まで運んでくれる。最初に中国に来る様になってからもう20年が経とうとしているが、車窓から見える風景は変わらないものもあるし、大きく変わったものもある。
 
変わらないもの
私が滞在しているホテルの周りは小綺麗なショッピングモールで、20年前なら深圳の特区にしか無かった様な場所だが、少し離れて普通の路地へ行くと、昔と変わらない雑然とした風景がある。地面は凸凹でそこに屯するおじさんおばさんは、20年前と同じ様な服を着て電動自転車(バイク?)や店先のプラスチックの椅子に座っている。
毎日工場の食堂で食べる料理の味も変わらない。肉は骨付きでさらにぶつ切りされているので、骨を吐き出しながら食べる必要がある。すべての料理に万遍なく油が使用されている。日本だと脂っこい料理は好きだが、沢山食べると胃もたれがするのが常なのだが、こちらではもうそれがデフォルトなので朝から広東風焼きそばと炒飯を食べても平気になってきた。ただしこれは、食べる量をセーブしているからかもしれない。結局は質より量の問題で、胃腸が処理できない量を食べることが体に負担をかけてしまうのだろう。
 
変わったもの
2年前にニンボーに出張した時もすでにバーコード決済、アプリによる決済がそもそも固定した店舗もない様な屋台ですら普及していたし、タクシーも滴滴出行(Di Di)を利用すれば料金をぼられることもなく、安全に利用できた。それがもう街中の至るところでWechat Payや Alipayが利用できる様になっており、むしろ現金は敬遠される様になっている。さらに店に入っても注文自体がWechatのミニアプリ上からする様になっており、決済もそのままできる様になっている。逆に昔だったら言葉が分からなくても現金を持っていて、メニューを見て指差しで注文すれば飯にありつけたが、それが出来なくなっている。いや、できなくはないのかもしれないが、恐らくアプリ注文と決済が出来ないことを店員に説明して、その上で注文して食べた後にAlipayで払いたいのだと説明しないと行けないのだと思う。KFCでも、カウンターに行ったら目の前のQRコードを示されて、これで注文しろと言われたのだ。目の前に人がいるんだからそのまま注文を受けてくれればよさそうなものである。この辺はまだまだ探索が必要だ。
20年前はこちらでの娯楽といえば夜のハードコアなお楽しみを除けば、海賊版DVDで映画を見ることか、PS2(香港で改造してプロテクトを外してあるもの)の違法コピー品や、ニンテンドーDS3DSの違法ダウンロードゲームで遊ぶぐらいしか無かった。あまり大きな声ではいえないが、コストをあまりかけずにエンタメソースが得られたが、今いる場所ではそういうものは少なくとも今のところ手に入りそうにない。まあ、そもそもDVD見ようと思っても、ノートPCに光学ドライブが付いていないし、ゲーム機を使わなくてもスマホでゲームできる時代になっている。私としてはスーファミからのゲーム好きなのでゲームハードでゲームがしたい。なので今回はSwitchを持ってきたのだが、こちらでペンキ塗り合戦にデビューしようと思って来る直前に奮発して中古ソフトを買ったものの、ネットワークの関係でロビーに入ってもマッチングしない事がわかり茫然とした。仕方がないのでだいぶ前に買ったもののやる時間がなくお蔵入りになっていた「ファイヤーエムブレム風花雪月」を引っ張り出してきて隔離期間中からちまちまとやっている。その前に3DSで遊んだ「ファイヤーエムブレムif」が本当に面白かったのでその勢いで買ったのだが、学園が舞台でプレイヤーは先生という設定が最初受け付けずに放置してあった。そういう意味では「ゼルダの伝説スカイウォードソード」も学園という設定が嫌でやらずに金色のコントローラーごと売ってしまった。今回の風花雪月を遊んでみて、食わず嫌いしないでスカイウォードソードもやった方がいいのではないかと考え直している。ちょうどこれもSwitchでリメイクされているので、風花雪月に飽きたら遊んでみてもいいかもしれないが、それぞれどの学級を受け持つかで少なくとも三回は遊ばないと全貌が見えない様だし、DLCも発売されているので当分遊び続けられそうだ。
話が逸れたが、エンタメソースもネット時代になってVPNを通せば動画配信のサブスクサービスもこちらで楽しむ事ができるし、ゲームの新作もネットから購入する事ができるので、国境を感じずにサービスを受けることが可能になっている。
 

 

 


健康コードの謎
もう一つ今回変わったものとしては、Covid-19対策として中国で実施されている「健康コード」の運用である。これは頻繁なPCR検査とセットなのだが、近くの地域で陽性者がでると、健康コード上で24時間、あるいは48時間以内にPCR検査を受けて陰性であったことを示す必要がある。近所のショッピングモールに入る時も各入り口に係員あるいはガードマンがいて提示しないと入れてもらえないのだ。
この健康コードのためのPCR検査を受ける時にはまたWechat上のミニアプリを使用するのだが、こちらが「核酸3」「核酸4」あるいは「核酸6」と毎回別のアプリを使用するように指示がある。なぜそうなのかは分からないまま、言われた通りにQRコードを読んでそのアプリを登録するのだが、その際に現地ので携帯電話番号とパスポートナンバーが必要なのである。おかげでそれらの番号は暗記してしまったが、なぜ末尾の番号が違うアプリになるのかは謎のままだ。この辺も今後の探索が必要なようだ。

テクノロジーは世界を救うか?〜 隔離から解放された

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朝五時のスネーク
iPhoneのアラームが鳴った。朝五時に鳴る様にセットしておいたのだから当然だ。大塚明夫さんの声で、というか、スネークの声で「いつも自分の意思で起きてきた」と言われると身が引き締まる思いがする。さあ脱出ミッション開始だ。昨晩フロントから指示された時間は0530。あと30分しかない。素早く服を着替えて、トランクを閉める。最後にペットボトルの水を一口飲む。さて、まだ時間はある。廊下に出て様子を伺うか?と思っていると部屋の電話が鳴り、かなりびっくりした。落ち着いて受話器を取りスネークだと名乗る…のはやめてハローと言うと向こうも英語で、時間になったので出てきてよいぞ、と言われた。さらに、入るときの道順を覚えているか?と聞かれたので、イエスと答えると、オッケー、グッドラック!とは言わなかったが、サンキューと言って受話器を置いた。さあ、作戦開始だ。
 
10日間ぶりにドアの外へ
いつも弁当を取る時と、PCR検査で口の中にアルファスティックを突っ込まれる時だけ開けていたドアをゆっくりと引き開けた。予想以上に静まり返っており、またバイオハザードチックな妄想が頭の中を駆け巡る。そういえばこのホテルは内装もクラッシックで、バイオハザードの雰囲気が一番しっくりくるかも知れない。拳銃もナイフも持ってないが、とにかくエレベーターホールに行かなければならない。エレベーターと言えばこれもバイオの定番的なトリックだ。ボタンを押しても動かない。電源切れているようだ、みたいなテキストが視界の下側に出てきそうだ。しかし実際にスーツケースを引きずってエレベーター前に行き、下の階に降りるボタンを押すと低いモーター音がどこからか聞こえてきた。むむ、と言う事は今度は開いたと途端に中からゾンビが出てくるお約束があるのか?チン!と音がしてドアの横のランプがつく。思わずツバを飲み込む。ガゴー!という音とともに両開きの金属ドアが開く。意地悪な人の悪意に満ちた笑顔の口のような開き方だった。中は無人だ。
 
来たルートを戻る
エレベーターに乗り込み、ふと考える。このまま一回に降りたらどうなるのだろうか?ゲームオーバーだろうか?これはイカゲームではない。記憶の通り十四階のボタンを押した。けエレベーターは微かな振動とともに上に動き出した。9、10、11… エレベーターの中も白い汚れでびっしりだ。消毒液のせいだろう。12、13、チン!と音がして14のランプが点いている。一瞬の間があってまた、ガゴーと音を立てて金属ドアが左右に開く。厳格な門番が、誰かの指示を受けてクロスさせていた槍を引っ込める様だ。十四階のフロアはやはり無人で静まり返っていた。毛の長い絨毯のおかげで、スーツケースのローラーも思う様に回らない。引きずる様にして引っ張って進む。重さで肩が軋む。エレベーターホールを出て廊下をA楼の方へ進む。来た時に見たおそらくレストランだった空間に出た。来た時見たのと同じで、窓際にベッドマットが積み上がっている。黄色い巨大なゴミのコンテナが並んでいる。もちろん赤でバイオハザードのマークが入っている。一瞬それがアンブレラCorpのマークに見えたということにしておく。
 
下のエレベーターへ
反対側のら廊下からエレベーターホールに入ると、二機のエレベーターが並んでいる。右側のエレベーターのボタンを押してから、その扉に張り紙がしてある事に気がついた。このメッセージを間違えると大変なことになるかもしれない。右側の扉には新入者、左側には…退去者と書いてある!!ドギャーン!!荒木飛呂彦先生なら、こんな擬音を私の周りに書いてくれた事だろう。仕方がないので自分で言ってみる。ドギャーン!!ゴゴゴゴゴ…こ、これは!ひ、左側のボタンを、押さなければダメじゃあないか! お、おすんだポルナレフ!右側の!エレベーターが!あがってくるっっ!!ジョ、承太郎!押すんじゃ!左側のボタンを!やれやれだぜ…。スタープラチナ!オラオラオラ!!ポチ。左側の、エレベーターが、動き出した!た、助かった! ジョースターさん!右側のが先に来てしまいます。 な、なんとかするんじゃ花京院!チーン。ゴゴゴゴゴーガー。無人のエレベーター室内。再び静かに閉まるエレベーターのドア。ほっとする4人組…… とまあ、こんな感じのドラマが頭の中で繰り広げられた後で、左側のエレベーターに乗って一階のボタンを押した。
 
下降するエレベーターの中で
ドアが閉まり、エレベーターが下降を開始した。そちらのエレベーターはシャフトもケージもガラス張りで、遥か下にロビーのフロアが見えた。確かに入った時は左側のエレベーターで十四階まで上がった気がする。先ほどちらっと左側のエレベーターの中を見た時には周囲は全て透明ではなかった様に見えた。おかしい。入る時にはエレベーターから下のロビーを見た記憶がある。何か別の世界へ繋がっていたのだろうか? 10日間隔離されている間に別の世界線へ来てしまったのか?…… などと勝手な思い込みで戦慄しているとチーン!と音がなった。え? 階数表示を見ると10階だ。エレベーターが止まった? し、しまった〜 誰か別の隔離者が乗ってくるということか! 確かエレベーターは一人でしか乗ってはいけないことになっていたはずだ。ここでルール違反をすると…… まあ、イカゲームではないので撃ち殺されることはないと思うが…… ガゴーという音と共にドアが、ヘブンズドアー!!が開いていきます!!ガフの扉ではありません! 開いた扉の先にはスーツケースを二個両手で持ったモジャモジャ髪の男が立っていた。庵野監督の様な髪型だ。一瞬目があったので、反射的に軽く会釈すると、向こうは普通に乗ってきたのである。あか〜ん、一人乗りなんやで〜。と心の中で思いながら黙ってガラスの向こうのロビーを眺めていた。やがてドアが閉まり、エレベーターは静かに下降を始めた。
 
The World Is A Ghetto
エレベーターを出ると、きた時にはなかったテーブルが出口の前にあり、その前に防護服を着た女の人が書類を持って待っていた。私の他にはその防護服の係員と、同じく隔離されていたと思しき女性、そして私と一緒にエレベーターで降りてきた庵野監督ヘアの男の四人だった。隔離されていた女性はスマホを耳にあて中国語で何かを喋っている。恐らく迎えに来る人にここの場所を伝えているのであろう。電話を耳から話して、今度は係員にここを出たら右に行くのか左に行くのか?みたいなゼスチャーをしている。係員はでたら右へ行けと言ったようだ。その女はそれを合図に外へ出ていった。後に残ったのは係員と庵野監督へアの男と私だけだ。彼は私よりも先に降りていったので、先に係員に書類をもらっていた。その際にこの先何度もお世話になる健康コードを提示した様だった。私も同じように防護服を着た係員に近づいていくと、同じく書類を見せて、ここにサインせよと、部屋番号と名前をリストの中から確認させられた。それらを済ませて健康コードを見せると、出て良いということになった様だった。いよいよ10日ぶりに外の世界へ出る時が来た。
外は小雨が降っていた。先ほどの女と係員のやり取りを思い出すまでもなく、外へ出ると右にしか進めなかった。進んだ先にはバスが入ってきたゲートがあり、その前に守衛小屋が見えた。先に出た女がその小屋の中にいる守衛に先ほどサインした書類を見せている。先ほどのが最後かと思ったが、ここでもチェックゲートがあるようだ。近づいていくと、手前に置いてあるロープの前に止まれと言っているようだ。横から回って近づこうとしたら、すごい剣幕で来るなのゼスチャーをされた。部屋番号は先ほどの書類に書いてあるのでそれを見せると納得して、ゲートを開けてくれた。スーツケースを引きずりながらゲートの外へ出る。特に何も変化があるわけではない。そもそもこの世はゲットーなのだ。
 
Technology save me
ゲートの外では白いホンダに乗った運転手が手招きしている。実は受け入れ先の会社の人が送迎の車を用意してくれる手筈だったのだが、朝の五時では無理ということだったのだが、日本では竹野内豊、いやGoみたいなアプリで呼べるタクシーは2年前にニンボーに行った時にもすでに中国では普及していたが、もうすっかり普通に市民の足になっており、逆に昔ながらの屋根の上にランプをつけた的士は全然見かけないなと、隔離されたホテルの部屋の窓から眼下の道路を通る車を見ながら思っていた。そういう昔ながらのタクシーだと現金が必要だし、そのおかげでぼられる可能性もあったが、今のアプリタクシーはそもそもぼるということが出来ない。決済はキャッシュレスで行わなければならないからだ。今回は受け入れ先の会社の人が払ってくれており、私はそれに乗るだけで、目的地まで運んでもらえるのだった。つまり、テクノロジーに幸あれという事だ。
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Covid19 Stranding〜 隔離がそろそろ終わる

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隔離終了日が近い
何度もこのブログでは取り上げているが、私の好きな小島監督の「デス・ストランディング」というゲームがある。PS4、PS5か Windows PCを持っていないとできないので、私が思っているほど世の中の人はこのゲームの内容を知らないのではないかと思う。ゲームをやった感想かに関しては、以前にブログで書いているのでそちらを読んでいただきたいが、簡単にどんな内容かだけ述べると、未来の世界で死後の世界と今我々が生きている世界が繋がってしまうという現象が起きて…… 自分で書き始めてなんだが、この内容を説明しようとすることの難しさは半端ないっ!と思ったので、さらに思い切り簡単に書くと、ゲーム内でやることは「様々な困難を潜り抜けて、宅配便を届ける事」である。
誰に届けるのか? このゲームの世界では、人々は他人との接触を避けて荒野の真ん中にあるシェルターの様な、地下構造の建物に引きこもっているので、それらの人々に届けるのである。ゲームの中では、配達先の人たちは玄関先までプレイヤー(サム)が行っても、基本的にはホログラムで対応する。なぜ? 外には怖いお化けがいるから。そんなわけで、そのシェルターの中にいる人達がどんな暮らしをしているのかは、想像するしかなかった。(ゲームの終盤で空き家になってるシェルターに入ることはできる)しかし、今回の事でその暮らしがどの様なものかの一端を垣間見ることができた気がする。この中国での検疫隔離生活でだ。たった10日間ではあるが、それは考えているよりも相当に辛いものであった。
 
強制的ひきこもり
隔離期間中はホテルの部屋から一歩も出てはいけないのである。ドアの外には警報器がついており、外へ出るとヒロヒロヒロ…… と気の抜けたような音が鳴る。しかし、確実にその音が鳴り続けたら関係者が飛んでくるのだろう。ゲームの中のNPC達はお化けやタイムフォールという、浴びると急速に老化する雨なんかが怖くて引きこもっているわけだが、検疫隔離対象の我々は、むしろ外にいる人々に「Presumed Career」と恐れられている。簡単に言えば監禁されているのだ。しかし、ただ監禁されている人と違うのは、このゲームと同じように外のお店に注文すると本当に届けてもらうことができるのだ。一応、隔離中に禁止されている物(酒、たばこなどいくつかある)は途中で医療班のチェックが入るので、没収されてしまう様だが、それ以外の嗜好品、例えばコーヒーなんかだとちゃんと届くのである。私も、中国のお世話になっている会社の方の好意でコーヒーバッグを届けてもらい、後半はコーヒーを飲むことが出来た。普段何気なく飲んでいるから意識していなかったが、コーヒーの精神安定効果は絶大だった。こちらがそうやって望むものが届くというのは本当にありがたい。日本ではただ単に買いに行く時間がないとか、重くて持って帰るのが面倒だという様な理由でAmazonなんかを頼んでいるが、それだけではデススト世界の住人のサムに対する感謝の気持ちを理解したとは言えなかったということがこの10日間の隔離生活で得た貴重な経験だ。
 
シェルターから出る日
とうとう明日、隔離期間が終わり外の世界に出ることができるようだ。しかし、今しがた来たホテル医療班のチャットによると「朝5時半にチェックアウトせよ」と書いてある。いや、出たいのは出たいんだけど、朝5時半って……

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世界と繋がっていると感じるか?(CELLS!)〜中国で隔離された

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中国についた
中国に入国してから7日目になった。隔離期間としては6日目ということになる。渡航した日はカウントしないというのは、ビザも同じなのでそのほうがいいのだが、隔離期間に関しては1日でも早く終わって欲しいので、移動日もカウントしてほしいというのが本音だ。隔離さきのホテルで半ば強引に加入させられたWechatグループでも盛んに「一日多いけどどうしてだ?」みたいな書き込みが初日ぐらいには散見されたが、政府の決めたことなので何を言っても無駄だ。6日前に成田を出発して広州空港について、さらに隔離ホテルの部屋に入るまでを以下に簡単にまとめる。これから中国に行く人に何かの参考になればと思う。


成田から飛行機に乗るまで
成田にはフライト時間の2時間前に到着した。すでにANAのカウンターには長蛇の列ができており、カウンターを回り込んで保安検査場の前まで並んでいた。それには理由があって、同時刻に出発する三つの便が全て同じ列に並んでいたからのようだ。しかしチェックイン自体は自動機でやるので、まずその端末に行ってチェックインすると同時に荷物タグをプリントアウトして受け取る。それを自分の荷物につけて、列に並ぶ。列に並んでいる間に係員が巡回してきて、48時間、24時間の2回PCR検査を受けた結果を中国大使館が確認してグリーンになったコードを確認して回る。この時画面キャプチャーではなく、その場で動いているコード(QRコードの周りを4つの点がぐるぐる回っている)のを見せてくださいと言われるので、WEBページかWechatのアプリでそのページそのものを見せる必要があった。その列は荷物自動預け機に繋がっており、荷物を自分で端末を操作して預けるわけだが、この時に「顔パス」機能に登録しておくと、最後の搭乗時にそれが利用できる。あまり意味はない気がする。ただ、人との接触を避けるためだと思う。
その後第一の関門として、中国の健康コード登録がある。やり方はパネルに貼り出してあるのでそれを見ながらやるのだが、ここで既にWechatが必要になるのであらかじめ準備が必要である。そして、登録が完了してコードが出た画面を係員が確認するとやっと保安検査に行ける。
そのあとは今までと同じく保安検査をうけてから、出国審査、搭乗ゲートから搭乗という流れである。少し違うのは、ゲートを抜けたら機内で食べるパンと水の入った袋を渡される。今回乗った機材は787だったので、エンタメ設備も普通に搭載されており、映画や音楽も楽しめた。ヘッドホンは予め座席の前のポケットに入っていた。私は朝早かったのでパンと水を食べて眠った。ドスンという振動で目が覚めると既に広州白雲空港に到着していた。

 

広州空港到着から出発まで
空港に着いてもすぐには降ろしてもらえず、当局の指示を待つ感じだった。やがてアナウンスで降機できる旨が伝わり、みなさん整然と降りていった。座席は相変わらず一席おきに座っているので、満席でも半分の乗客しか乗ってないため、スムーズに降りられた。
降りてから空港内が異様な雰囲気なのに気がついた。売店とか、逆に搭乗する人とかそういう物が柵越しに見えるのが普通だが、全て無人でシャッターが降りている。歩き回っているのは防護服を着た人達だけで、ゴム手袋をしてビニール袋に入ったスマホをいじっている。まさに終末系の映画やドラマでよく見る、ゾンビやエイリアンに支配された世界の空港の様だ。成田ではそんな異様な感じはうけなかったが、さすが中国、ゼロコロナを徹底的にやるとこうなるということだと思った。
通路を進んでいった先で、ベンチが並んだ広場に一旦止められた。そこでいわゆる「入国カード」を渡されたので、記入しなければならないのかと思っていると、何やら列に並んで一定の人数を送り出している。私はペンを持っていなかったので焦って、周りにいた日本人らしき人にペンを貸して欲しいとお願いした。その方は快く貸してくださったばかりか、差し上げますと仰り、さらに「早く列に並んだ方がいいですよ」と言った。私は防護服を着た係員が何を言ったか全然わからなかったので並ばなかったが、そもそもここで入国カードを書く必要は実は全然なかった。いつも通り入国審査のところの前に書記台があり、そこにはヒモのついたペンが昔のようにある事を後で発見するのだが、この時は紙を渡されたら書くものだと思うのが人情だろう。
列に並んで一定数が送り出されていく先には、10台ぐらいの自動チェックイン端末の様な機械が並んでおり、その空いた一台に行けと指示された。チェックイン機と同じように手前にパスポートをスキャンするガラス面がある。そこにパスポートをおくと、下から切手大のシールが出てきた。説明パネルによるとそれをパスポートの裏表紙に貼るようだ。その場で台紙から剥がして貼り付ける。さらに進んでいくと、今度はまた行列ができている。その列に並んで待っていると、PCR検査のための採取場だった。通常であればどこかの廊下なのだろう。その廊下からドアを挟んで細長い部屋があり、それがさらに壁側だけ6個ぐらいの小部屋に仕切られている。その一つ一つにまた防護服を着た係員(医療関係者)がいて、順次あいた部屋に行くよう指示された。小部屋に入るとスキャナーがあり、先ほどパスポート裏に貼ったコードを読み込ませると、上にあるモニターにパスポートの写真付きのページが表示された。その顔と私の顔を見比べて確認したあとで部屋の隅にある椅子に座る様指示した。鼻から採取するのかと思い、マスクから鼻だけ出すと「Kou」と言われたのでさらにマスクを下げて口を開けた。日本で2回核酸採取を受けた時に、最初の病院で採取スティックをのどの方に突っ込まれてえずいた事を思い出したが、こっちへ来てからはかなり慎重に左右の舌と、口腔の辺りを擦るので、えずくことはなかった。
採取を終えたあと、さらに通路進んでいく。ここも照明も最小限でかなり終末感が漂っている。どこからか悲鳴や銃声が聞こえて来てもおかしくない感じだ。天井の高い広い場所に出た。ここは恐らく空港の入り口ロビーだったと思われる場所だ。また、柵で通路が作ってあり、その柵の反対側はガラス張りの部屋がずっと続いている。恐らくロビーにあった売店を利用しているのだろう。もちろんドアは完全に封鎖されており、そのガラスの中にはまた防護服を着た係員が数人いる。一番手前にまたすスキャナー端末があって、ガラス越しにまたパスポートの裏に貼ったQRコードを読ませるよう指示がある。指示通り読ませると、手サインで行ってよしと示めされる。その左側がガラスで右側が柵の通路を進んでいくともう一度QRコードを読ませる場所があり、それを終えるとまたさらに先へ進むことになる。恐らくロビーの広い空間の端と思われる所に出口が見えた。そこから外へ出ると高速バスが8台ぐらい並んでいた。その先頭に防護服を着た係員が立っておりこっちへ来い呼んでいるので行くと、荷物を荷台に乗せてからバスに乗れと言っている(と思う)。
 
バスで広州のどこかへ
バスの中も、全体的に白い粉が吹いたような感じだ。これは恐らく消毒薬を撒いたせいで、その成分が残って白い粉の様に見えるのだろう。しかし、内装が剥がれかけていたりして、まるで廃車置き場にしばらく置かれていた様に見える。これからゾンビが溢れる街中を突破しなければならない…… という雰囲気満点だ(違います)。バスには後でわかったが39人が乗っていたようだ。到着したホテルで作られたWechatグループにそう書いてあった。マスクはしているものの、身内では会話もできてそんなにシビアな雰囲気はしないが、よく見ると運転席は透明板で仕切られている。この客室自体が隔離されているのだった。
バスは高速道路に乗り山の中に入っていく。仮面ライダーだと、このままショッカーの秘密基地に連れて行かれて改造人間や戦闘員にされてしまう…… のだが、バスは山を抜けるとやがて高層ビルが立ち並ぶ街に出て、気がつくとホテルの駐車場にいた。しかし、この駐車時用自体がまた隔離スペースらしく、バスが入ったら素早く門が閉まり、乗客が全員降りると素早くバスは走り去った(と思う)。バスを降りた我々はまた、ホテルの入り口(裏口)につながる列に並んで受付の順番を待った。その間に先ほどのWechatグループへの登録用QRコードや、ホテル滞在隔離時の注意事項が書かれたチラシをもらった。さらにマスクを渡されその場で二重につける様に指示された。かなりしっかりしたN95マスクだった。

 

隔離ホテルへ到着
裏口から入ると、透明パネルと骨組みでできた急拵えの受付があり、そこで二人ずつチェックインをしていた。ここで先ほどの注意チラシに書いてあった通り、一泊600元(!)のシングル料金7日分4200元プラス当日の晩御飯代40元、4240元を払う。このあたりは、他の人で別の地域に行った際の話を聞くと、初日(カウントされず0日目扱い)は到着時間もまちまちだから、部屋に行ったらカップ麺が一つ置いてあっただけ、という話も聞いていたのでちゃんとした晩御飯を準備してもらえて良かったと思う。支払い時は最初Masterのクレジットカードを使用したが、うまく通らない。次にVISAのカードを渡すとすんなり受けつけられた。事前情報ではVISAがダメでMasterは OKだったと聞いていたのだが、逆だったようだ。これも、場所によってはどちらが有効かわからないので、両方のカードを持っていると安心だと思う。JCBは試していないのでわからない。支払いを終えて、部屋のカードキーをもらうと「B-825」と書かれており、この簡易受付の向こうの窓から見えるロビーの壁に「B楼」と書かれている。ということはここはA楼なのだろうと推測した。どうやってA地点からB地点までいくのだろう?……「恋のボンチシート」が頭の中で鳴りそうになるのを押さえながら、辺りを見回すと受付の横にエレベーターがある。エレベーターの横にある図によると、このホテルは想像通りA楼とB楼がありその間はロビーその他の部屋がある部分があるようだ。で、その図によると一度14階まで上がってロビーの真上にある部屋を突っ切って反対側のB楼へ行き、エレベーターで8階まで降りてから部屋へ行けばいいことがわかった。その際エレベーターに乗る人間は一回につき一人と書いてある。エレベーターに乗るとシャフトがガラス張りなのでロビーの様子が見える。ロビーは別世界で、隔離されていない普通のお客さんもいる様だ。14階について降りると「隔離されている世界」は相変わらずの終末感でA楼とB楼を繋いでいる部分はレストランか何かだったのだろうと思われる。人の姿は見当たらず、床の上には消毒薬の瓶や使用済みの手袋などが散乱している。机も椅子も壁際に寄せられており、窓際にはベッドのマットレスが積み上げられている。何があったのか?(コロナのパンデミックだが)なんの襲撃に備えているのだろうか?と思ってしまう。B楼へ辿り着き、エレベーターに乗ってドアが閉まるまでがやたら長く感じた。8階まで降りてドアが開いた。外に出てみるとやはり無人だが、何か気配がする。恐らく各部屋には隔離された人が居るのだろう。「825」の部屋を探して廊下を歩いている間も何かの視線を感じる……様な気がしたぐらいだ。部屋番号を見つけ、カードキーをかざしてロック解除して部屋に滑り込む。ふう、……ここまで来れば一安心だ。
 
隔離の日々
ひとまず隔離部屋にたどり着くことに成功したが、気を抜くことはできない。時間ごとにやることが決まっているからだ。
07:30 朝食配膳
08:00 核酸採取
08:00〜09:00 検温(数字を撮影してグループチャットにUPする)
12:00 昼食配膳
14:00〜15:00 検温(同じく)
18:00夕食配膳
19:30〜19:40 ゴミ出し(ただし最初の48時間はゴミ出し禁止)
というのが1日の基本的なパターンである。しかし、これだけではない。ここでもまた、これらの間を縫って核酸検査結果を反映した健康コードの申請があるのだ。まあ、そんなに切羽詰まったスケジュールではないけど。それに関してはまた次回。私が部屋に入ってまずしたのは、Netflixで「ブレードランナー2047」をみることだった。世界と繋がってると感じるか? CELLS!
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日本語の通じない世界へ~  二年ぶりに中国へ出張する

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コロナの終わり、変化の始まり
長かったコロナ禍が収束の兆しを見せている。まだまだ、もう一度盛り上がってくる可能性もないとはいえない。しかし、進化論的見地からみると、感染力の強化と宿主へのダメージは二律背反なので、感染力が強くなった代わりに弱毒化している今の状況は、その先には完全なる共存の道筋が見えている。
そんな状況なので実に二年ぶりに海外、中国に出張することになった。以前は一年に数回は海外(と言ってもアジアだけだけど)出張していたが、コロナのおかげで様々なことが変わってしまった。見える範囲だけでも相当変わっているので、見えない部分での変化もかなり大きいだろう。出張に関する目に見える変化として、中国に入国するためにはまずビザを取る必要がある。ビッグサイトの近くにあるビザセンターへ、申請と受け取りで二回足を運んだ。ちなみに金曜日休みだったので、都合三回訪問している事は会社には秘密だ。今取得できるのはシングルエントリーの90日滞在可能なものが最大の様だ。これもかつては一年有効で90日間何回でも出入国出来るビザが取れたのだが、後述する隔離期間のせいで、そんな事やってられないのだろう。入国48時間前から二回PCR検査を受けて二回とも陰性でなければいわゆる健康コードがもらえない。その検査費用は一回二万円前後かかる。二回で四万円だ。これを入国の際に毎回必要なのだから、マルチなんてやったら経費が嵩みまくる。ちなみに中国に入ってからもPCR検査をそこら中で受けることになるらしいが、その費用は5元だそうである。
検査結果はWeChatという日本で言えばLINEの様なチャットアプリで送られて来る。そのためのスマホ必須であるが、ややこしいのは、中国に入ってからは別のスマホで別のアカウントで健康コードなどのやり取りをする必要があるという事だ。理由は単純にセキュリティ上のものだが、その時点でスマホが二台、会社用のものを持っている人はもう一台、さらにローミングデータ通信用のWi-Fiルーターがいる。そのための充電器やケーブルもいるだろう。モバイルバッテリーだっている。世の中便利になると、その便利さを逆手にとって害をなす輩が必ず出て来る。その害から身を守るための労力は享受できる便利さを上回っていないかどうかは、どうやったら分かるのだろか。
 
しばらくは旅の記録
そんな訳で、今午前6時14分、成田空港に向かうスカイライナーのなかである。頭の中でドリフターズ西遊記のテーマが流れている。西へ向かうぞニンニキニキニキニン。これから帰国するまでは、一つのことを論考するのではなく、ブログ本来の気軽なスケッチ的な文章にしようと思う。

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天敵の天敵は友達だ、世界に広げよう天敵の輪~  「天の敵」を観た

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本多劇場

2022年10月2日下北沢の本多劇場でイキウメの「天の敵」を観た。

前回の「Shoot me Show me」を観て、すっかり演劇を見る楽しさが蘇ってしまい、次!、次のをくれ~!!という状態になっているところへ、日経新聞の紹介記事を読み、そのままLoppiでチケットを購入してしまった。

実際に行ってみてわかったが、全席指定だったので、買ったときにはすでに本多劇場での最終日のものだった。スケジュールを見るとこの後大阪で二回公演があるが、実質今回の東京での公演は最後と考えていいだろう。

 

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あらすじ

今回の演目である「天の敵」は、実は2017年に初演されている。なので、あらすじを書いても良いのではないかと思うが、ネタバレが嫌な人は読まないことをおすすめする。

冒頭の部分は公式から引用します。

 

二〇一七年、ジャーナリストの寺泊満は、菜食の人気料理家、橋本和夫に取材を申し込む。きっかけは妻の優子だった。寺泊は難病を抱えており、優子は彼のために橋本が提唱する食事療法を学んでいた。当の寺泊は健康志向とは真逆の人間だが、薬害や健康食品詐欺、偽医療の取材経験が多く興味があった。優子がのめり込む橋本を調べていく内に、戦前に独自の食事療法を確立した長谷川卯太郎という医師を知る。寺泊はこの長谷川と橋本の容姿がよく似ていたことに興味を持ち、ある仮説を立てて取材に臨んだ。寺泊は、プロフィールに謎の多い橋本は長谷川卯太郎の孫で、菜食のルーツはそこにあると考えた。橋本はそれを聞いて否定した。実は橋本は偽名で、自分は長谷川卯太郎本人だと言う。本当なら122歳になる。信じない寺泊に、橋本は19世紀から始まる自分の数奇な人生を語り始める。橋本の長寿の秘密は食事にあった。不老の健康法は、寺泊の病をも治す可能性がある。しかし、その食事療法は、明らかに人の道を外れていた。(チラシより引用)

 

寺泊の抱えている難病がALSであること、つまり現在は治療法がなく数年後には必ず死に至るという背景が、この橋本=長谷川の語る「食事療法」への寺泊の興味を観客のそれを超えた切実なものにしている。

もちろん観客にとってもアンチエイジングや健康は「永遠の今」を望む現在の我々にとって切実な問題だ。その方法が人の道を外れていても、もし本当に効果があったら絶対に実行に移す人間が出てくるだろう。

ちなみに「永遠の今」というキーワードは、たとえばマーベルスーパーヒーローズに出てくる人たちが、逆説的にスーパーパワーを持ちながら、抱える問題はごく当たり前な人間のものであること、つまりそれは機械やテクノロジーで能力を拡張した現代人が置かれている状況を戯画化したものであり、それは現状にとどまりたい=永遠の今を享受したい我々の姿であるということらしい。

ちょっと話がそれてしまったが、この演劇も行き過ぎた健康志向やアンチエイジングなど「永遠の今」にしがみつく現代を生きる我々=観客にとっても無視できない題材を扱っているため、寺泊とは別の立ち位置にいながらも長谷川の語る話にのめり込まざるをえないのである。

 

 

 

 

永遠の命は永遠の今

先述のマーベルスーパーヒーローズにはもっと長く生きているキャラクターは沢山いる。122年生きているだけでは、そこまで特殊な状況ではないかもしれないが、30代ぐらいの肉体で健康そのものであれば、特殊かもしれない。豊富な人生経験という意味では「人を喰ったような」対応により、(自分より人生経験の乏しい)若い人間を手玉に取ることは簡単かもしれない。最近プレイしたゲーム「Horizon ~Forbidden West~」には、まさに今の延長線上の世界からさらに1000年を生きた「ファー・ゼニス」という集団が出てくる。しかし彼らも1000年も生きている割に俗っぽく、自分たちを滅ぼしに来るAIに対して逃げるついでに寄ったかつての地球でも、再生した人類に対してなんの興味も持たず、むしろ滅ぼそうとする。全然成長がみられない。いや、科学は格段の進歩を遂げている。再生した人類の持っている科学にくらべて、桁違いの(魔法のような)力を持っているが、その精神は低俗で野蛮だ。むしろ、再生した人類のほうが高い精神性を持っているようにも見える。

一体、我々の心というのは何なのだろうか? ふとそんなことを疑問に思う。そのような問はいつもは意識されないが、ふと振り返るとそこにいつもいる自分の影のようなもので、しかし影を覗き込んでも何も見えてこない。

 

 

 

Ghost in the machine

過日車を運転しながらFMラジオを聞いていたら、なにやらとても面白い曲が流れてきたのでメモっておこうと思い、しかし運転中なのでペンもメモ帳もない。仕方がないので信号待ちの間にスマホボイスレコーダーを立ち上げてDJが言った演奏者と曲名を吹き込んでおいた。しかし、そのグループ名と思しき名前と曲名で検索をかけてもなかなかヒットしない。聞いていたFM局のWEBサイトへ行けば、番組中にかけていた曲は記載されていたと思うが、すでにいつだったかがわからないので、しばらく忘れていた。

曲のタイトルは「Ghost in the machine」だったが、その曲名で検索するとポリスの曲がヒットする。最終的に判明したバンド名は「Dawes」だった。これ、日本語でなんて読むのが正しいかわからないんだけど、FM番組のDJが呼称した音をそのまま録音しておいたはずなんだが、そのスペルが全然わからなかったので、検索にヒットしなかったのである。

この「Ghost in the machine」というのは「機械の中の幽霊」ドグマという、G・ライルという人が提唱した概念で、デカルト提唱の心と体の仕組みをわける考え方では、心の仕組み、何から構成されているのかは見えないという問題提起を象徴する言葉だ。つまり、心にもきちんとした機械論的アプローチができるし、身体と離れたところにその機能があるわけではない、むしろ身体と不可分なのが心だろうという考え方のすすめであった。

この考え方からすると、いくら千年生きようと、万年生きようと体の年齢、状態に心は依存していることになる。知識や思考がいくら高度になっても、心の状態(感情や感覚)は一定のままなのだろう。小学生なのに飛び級して大学生になった人間のようなものかもしれない。心の変容の問題はこの劇の話と少し離れるのでここまでにする。

 

 

Misadventures Of Doomscroller

Misadventures Of Doomscroller

  • アーティスト:Dawes
  • Rounder / Umgd
Amazon

 

 

インタビュー・ウイズ・インケツシャ(ここは本当にネタバレします)

演劇の話に戻ると、このドラマのシチュエーションはどこかで観たことあるなと思った。「インタビューウイズバンパイア」のそれと同じだと思いあたった。あの映画のレスタトは200年生きているという設定だが、バンパイアという存在を対置することで、人間の欲望についてその細部を照射することができるドラマだった。

「天の敵」でも、直接牙を立てて吸うのでは無いが最終的にはバンパイアと同じような存在になっていく。永遠の若さと健康を手に入れた代償として、普通の食事が食べられなかったり、太陽の光が弱点であったりすることもバンパイアと同じである。最終的には、この手に入れた力が無制限に拡大していくのを恐れた長谷川卯太郎によって「飲血によるバンパイア化」を止めると語られる。しかし、ALSである寺泊に対しては、現在のところこの方法が唯一の生き延びる方法ではないかと告げで舞台を去る。残された寺泊はどのような選択をするのか? いや、そもそもこの話自体が壮大なホラ話ではないのか? しかし、その寺泊の心境の切実さは想像を絶するほどに深刻だ。いや、私だっていつ寺泊と同じような境遇になるかもしれない。これは我々一人一人にとってもすぐ隣りにあるかもしれない闇なのだ。心が身体に由来するものでありながら、身体が心を裏切るとき、心は本当に身体から生まれているのだろうか? 「機械の中の幽霊」問題は、普通の人が普通に考えるだけでは解けそうにない。

 

 

 

流れよわが涙、とオーディオ素人は言った~ 「これならできるスピーカー工作2020」でスピーカーを作った。

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中学生が考える恋愛

NHK Eテレで放送している「ロッチと子羊」という番組で「恋愛とはなにか」について女子中学生が質問していた。ロッチの二人が、その質問に対してかなり含みのある笑顔をしていた。私も全く同感だった。含むところをあえて書けば「そんなの知りたいと思わなくてもいずれ嫌というほど知ることになるのに~」というところだろうか。番組の中での回答としてエマニュエル・レヴィナスの以下の言葉を引用していた。

 

~恋愛とは自分のものにならない他者に惹かれることである~

 

世界は自分と他者から出来ているとレヴィナスは言う。その他者の中に自分が惹かれるものが他人だったとき、そこに恋愛が始まるということだろう。私もまさにこの質問者の女子中学生ぐらいの年齢の時に突然気になって気になってしょうがない人が現れた。その衝撃は今も忘れない。もちろん自分のものにはならなかった。そもそも人はモノではないとはよく言われることだが、いずれにしても自分のものになるどころか、自分の人生に全く関わりのない人のままである。今ごろどこで何をしているのかも全く不明だ。花に嵐の喩えもあるぞ、さよならだけが人生だ。……というような言葉にできない経験をその女子中学生もこれから嫌でもするに違いない。幸運を祈るより他に言うことはない。

 

www.nhk.jp

恋愛とは官能の喜び

ちょっと話がそれてしまったが、それでは恋愛の喜びとはなんだろうか。私は、一言で言って官能の喜びだと思う。官能とは五感で感じること全てだと思う。五感というのは味覚、聴覚、視覚、触覚、嗅覚ある。これらを全て味わい尽くす事のできる対象といえばやはり異性だろう。私の若い頃は、異性というのは男にとっては女、女にとっては男だが、今はLGBTQ+まであるので、異性という括りはもはやあまり意味をなさないかも知れない。そういう意味ではレヴィナス先生が言っているように単純に他者と考えたほうがいいだろう。

ここからは個人的な嗜好の話になるが、私は五感の中でも視覚からくる喜びに一番強く反応すると思う。それは視力が良かったということも関係するだろう。しかし、近年は視力も老眼のために衰えてきて、嗅覚も毎年の花粉症にやられるためほぼ機能しない状態が一年中続くようになってしまった。残るのは触覚、味覚、そして聴覚である。アニメーションには声優が絶対に必要だが、この声優さんたちの声は独特で、官能としての聴覚を刺激する。聞いていて本当に心地良い声というのはある。まさに福音である。

 

官能としての聴覚

官能としての聴覚、喜びとしての音、そのための機械といえばオーディオである。せっかく自分の家、自分の部屋を手に入れたので、久々にちゃんとした音で音楽や映画を味わいたいと思い、PCやゲーム機にちゃんとしたスピーカーをつなごうと考えた。きっかけは以下の記事である。

 

av.watch.impress.co.jp

 

オーディオ関係のブログ、記事を読んでいると、例えばアンプを替えた、スピーカーを替えたら音が良くなったという内容の文章を書かれるが、その内容が非常に官能の言葉、感覚を言い換えた例えの表現、メタファーでほぼ全部が書かれており、数値的な変化や比較というものが殆どない(まず見かけない)ということに気がついた。やはり官能というのは数値で図れるものではないのだろう。文学的な言葉でしか表すことは出来ないのだと思う。

 

 

いざ購入!……

上記のリンクにある通りの構成で、購入しようと思ったのだが、やはりネットで情報が拡散すると、同じようなことを考える人がたくさんいるのだろう。まずAmazonFostexのアンプ「PC200USB-HR」はまごまごしているうちに売り切れてしまったようだ。仕方がないので、Fostexの公式オンラインストアから購入したら、すぐ発送されてきた。

 

 

 

Polkオーディオのスピーカー「ES10」の方は値段が高いためか、そう簡単には売り切れていないが、これもなんとか安く手に入れる方法はないかと考えて、そういえばマイナポイント第二弾でもらった1.5K円があるし、それを入れているJREポイントが使えるJREモールで買えないかと思って検索してみると、これもちょうどタイミングよくJREモールにビッグカメラが新たに参入していて、買えそうだったので早速注文してみた。ところが、納期が未定だという。

 

 

 

 

これでは当分の間手元にあるのはアンプだけになってしまう。一応このUSB-DACアンプにはヘッドフォン端子もついているので音を聞くことは出来るが、それでは今まで通りゲーミングヘッドセットで聞いているのと変わらないことになってしまう。そこでふと「なければ作ってしまえ」という天の声が聞こえたので、以前本屋でオーディオ関係の本を探した時に見かけた、表題のムック本を思い出したのである。

 

 

いざキット作成!……

というわけで、やっとタイトルの話になるのだが今回購入したキットは以下の2つである。

実は最初スピーカーユニットのキットだけを買って、これで完結するものだと思っていたが、スピーカーユニットが付録のムックは、一対のスピーカーユニットが入っているだけで、エンクロージャーは別にムックの付録になっているというオチだった。なので、あわててエンクロージャーキットのついた方も注文した。両方とも2020年のムック本なのはたまたまである。でも、未だにネットで検索すると在庫はあるようである。

キットといっても、カットされたMDF(木材を繊維に分解して樹脂で固めたもの)の板が入っているだけでそれ以外の副資材、たとえば接着剤や固定するためのクランプなどは自分で考えて用意しないといけない。(ムック本の中に必要なものは書いてある)私もキットが届く前にホームセンターへ行ってF型クランプを2本買ってきた。しかし、結果から言うとクランプは使わなかった。その御蔭でちょっとずれて接着された部分もあるが、でも全体としてはかなりきちんと組めていると思う。組み立てのやり方はムック本に設計者の丁寧な説明がついているので、その通りにやれば問題なく組み立てることが出来ると思うので特に書かない。MDFを木工ボンドで貼り付ける時に、しっかりと接着面に対して垂直に力をかけると面がちゃんと出ているので吸い付くような感触がある。そこで少しずれているとだめだが、吸い付かせたあとで少しずつ調整すると良いと思う。といってもずれ量が大きいと、吸い付きが消えてしまうので、できる限りズレないようにするのがコツだろう。全体の構造としては特に自分なりの改造や工夫というようなものもせず、全くの素組で完成させた。

 

いざ聴音!……

ムック本にも設計者の方が「完成したら素晴らしい音が待っています」と書いているが、いざアンプに繋いでPCでiTunesを立ち上げ、再生してみてその言葉に疑いがないことがわかった。本当に素晴らしい音だ…… 素晴らしい音? しかし、その上にはもっと素晴らしい音があるのではないだろうか? 究極のいい音ってなんだろう?…… はっ!!

この質問を己自身にした時に、私の中の「仮想オーディオマニア」が冒頭のロッチの二人の顔に浮かんだ笑顔を見せた。レヴィナス先生に聞くまでもなく「究極のいい音」というのは永遠に自分のものにならない。それを追い求めるのが、オーディオ沼に足を踏み入れることだろう。自分で組み立てたスピーカーから流れる音楽を聞きながら、恋愛とはなんですか?と無邪気に聞く女子中学生の澄んだ瞳が、閉じたまぶたの裏に浮かんだ。