常盤平蔵のつぶやき

五つのWと一つのH、Web logの原点を探る。

テクノロジーは世界を救うか?〜 隔離から解放された

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朝五時のスネーク
iPhoneのアラームが鳴った。朝五時に鳴る様にセットしておいたのだから当然だ。大塚明夫さんの声で、というか、スネークの声で「いつも自分の意思で起きてきた」と言われると身が引き締まる思いがする。さあ脱出ミッション開始だ。昨晩フロントから指示された時間は0530。あと30分しかない。素早く服を着替えて、トランクを閉める。最後にペットボトルの水を一口飲む。さて、まだ時間はある。廊下に出て様子を伺うか?と思っていると部屋の電話が鳴り、かなりびっくりした。落ち着いて受話器を取りスネークだと名乗る…のはやめてハローと言うと向こうも英語で、時間になったので出てきてよいぞ、と言われた。さらに、入るときの道順を覚えているか?と聞かれたので、イエスと答えると、オッケー、グッドラック!とは言わなかったが、サンキューと言って受話器を置いた。さあ、作戦開始だ。
 
10日間ぶりにドアの外へ
いつも弁当を取る時と、PCR検査で口の中にアルファスティックを突っ込まれる時だけ開けていたドアをゆっくりと引き開けた。予想以上に静まり返っており、またバイオハザードチックな妄想が頭の中を駆け巡る。そういえばこのホテルは内装もクラッシックで、バイオハザードの雰囲気が一番しっくりくるかも知れない。拳銃もナイフも持ってないが、とにかくエレベーターホールに行かなければならない。エレベーターと言えばこれもバイオの定番的なトリックだ。ボタンを押しても動かない。電源切れているようだ、みたいなテキストが視界の下側に出てきそうだ。しかし実際にスーツケースを引きずってエレベーター前に行き、下の階に降りるボタンを押すと低いモーター音がどこからか聞こえてきた。むむ、と言う事は今度は開いたと途端に中からゾンビが出てくるお約束があるのか?チン!と音がしてドアの横のランプがつく。思わずツバを飲み込む。ガゴー!という音とともに両開きの金属ドアが開く。意地悪な人の悪意に満ちた笑顔の口のような開き方だった。中は無人だ。
 
来たルートを戻る
エレベーターに乗り込み、ふと考える。このまま一回に降りたらどうなるのだろうか?ゲームオーバーだろうか?これはイカゲームではない。記憶の通り十四階のボタンを押した。けエレベーターは微かな振動とともに上に動き出した。9、10、11… エレベーターの中も白い汚れでびっしりだ。消毒液のせいだろう。12、13、チン!と音がして14のランプが点いている。一瞬の間があってまた、ガゴーと音を立てて金属ドアが左右に開く。厳格な門番が、誰かの指示を受けてクロスさせていた槍を引っ込める様だ。十四階のフロアはやはり無人で静まり返っていた。毛の長い絨毯のおかげで、スーツケースのローラーも思う様に回らない。引きずる様にして引っ張って進む。重さで肩が軋む。エレベーターホールを出て廊下をA楼の方へ進む。来た時に見たおそらくレストランだった空間に出た。来た時見たのと同じで、窓際にベッドマットが積み上がっている。黄色い巨大なゴミのコンテナが並んでいる。もちろん赤でバイオハザードのマークが入っている。一瞬それがアンブレラCorpのマークに見えたということにしておく。
 
下のエレベーターへ
反対側のら廊下からエレベーターホールに入ると、二機のエレベーターが並んでいる。右側のエレベーターのボタンを押してから、その扉に張り紙がしてある事に気がついた。このメッセージを間違えると大変なことになるかもしれない。右側の扉には新入者、左側には…退去者と書いてある!!ドギャーン!!荒木飛呂彦先生なら、こんな擬音を私の周りに書いてくれた事だろう。仕方がないので自分で言ってみる。ドギャーン!!ゴゴゴゴゴ…こ、これは!ひ、左側のボタンを、押さなければダメじゃあないか! お、おすんだポルナレフ!右側の!エレベーターが!あがってくるっっ!!ジョ、承太郎!押すんじゃ!左側のボタンを!やれやれだぜ…。スタープラチナ!オラオラオラ!!ポチ。左側の、エレベーターが、動き出した!た、助かった! ジョースターさん!右側のが先に来てしまいます。 な、なんとかするんじゃ花京院!チーン。ゴゴゴゴゴーガー。無人のエレベーター室内。再び静かに閉まるエレベーターのドア。ほっとする4人組…… とまあ、こんな感じのドラマが頭の中で繰り広げられた後で、左側のエレベーターに乗って一階のボタンを押した。
 
下降するエレベーターの中で
ドアが閉まり、エレベーターが下降を開始した。そちらのエレベーターはシャフトもケージもガラス張りで、遥か下にロビーのフロアが見えた。確かに入った時は左側のエレベーターで十四階まで上がった気がする。先ほどちらっと左側のエレベーターの中を見た時には周囲は全て透明ではなかった様に見えた。おかしい。入る時にはエレベーターから下のロビーを見た記憶がある。何か別の世界へ繋がっていたのだろうか? 10日間隔離されている間に別の世界線へ来てしまったのか?…… などと勝手な思い込みで戦慄しているとチーン!と音がなった。え? 階数表示を見ると10階だ。エレベーターが止まった? し、しまった〜 誰か別の隔離者が乗ってくるということか! 確かエレベーターは一人でしか乗ってはいけないことになっていたはずだ。ここでルール違反をすると…… まあ、イカゲームではないので撃ち殺されることはないと思うが…… ガゴーという音と共にドアが、ヘブンズドアー!!が開いていきます!!ガフの扉ではありません! 開いた扉の先にはスーツケースを二個両手で持ったモジャモジャ髪の男が立っていた。庵野監督の様な髪型だ。一瞬目があったので、反射的に軽く会釈すると、向こうは普通に乗ってきたのである。あか〜ん、一人乗りなんやで〜。と心の中で思いながら黙ってガラスの向こうのロビーを眺めていた。やがてドアが閉まり、エレベーターは静かに下降を始めた。
 
The World Is A Ghetto
エレベーターを出ると、きた時にはなかったテーブルが出口の前にあり、その前に防護服を着た女の人が書類を持って待っていた。私の他にはその防護服の係員と、同じく隔離されていたと思しき女性、そして私と一緒にエレベーターで降りてきた庵野監督ヘアの男の四人だった。隔離されていた女性はスマホを耳にあて中国語で何かを喋っている。恐らく迎えに来る人にここの場所を伝えているのであろう。電話を耳から話して、今度は係員にここを出たら右に行くのか左に行くのか?みたいなゼスチャーをしている。係員はでたら右へ行けと言ったようだ。その女はそれを合図に外へ出ていった。後に残ったのは係員と庵野監督へアの男と私だけだ。彼は私よりも先に降りていったので、先に係員に書類をもらっていた。その際にこの先何度もお世話になる健康コードを提示した様だった。私も同じように防護服を着た係員に近づいていくと、同じく書類を見せて、ここにサインせよと、部屋番号と名前をリストの中から確認させられた。それらを済ませて健康コードを見せると、出て良いということになった様だった。いよいよ10日ぶりに外の世界へ出る時が来た。
外は小雨が降っていた。先ほどの女と係員のやり取りを思い出すまでもなく、外へ出ると右にしか進めなかった。進んだ先にはバスが入ってきたゲートがあり、その前に守衛小屋が見えた。先に出た女がその小屋の中にいる守衛に先ほどサインした書類を見せている。先ほどのが最後かと思ったが、ここでもチェックゲートがあるようだ。近づいていくと、手前に置いてあるロープの前に止まれと言っているようだ。横から回って近づこうとしたら、すごい剣幕で来るなのゼスチャーをされた。部屋番号は先ほどの書類に書いてあるのでそれを見せると納得して、ゲートを開けてくれた。スーツケースを引きずりながらゲートの外へ出る。特に何も変化があるわけではない。そもそもこの世はゲットーなのだ。
 
Technology save me
ゲートの外では白いホンダに乗った運転手が手招きしている。実は受け入れ先の会社の人が送迎の車を用意してくれる手筈だったのだが、朝の五時では無理ということだったのだが、日本では竹野内豊、いやGoみたいなアプリで呼べるタクシーは2年前にニンボーに行った時にもすでに中国では普及していたが、もうすっかり普通に市民の足になっており、逆に昔ながらの屋根の上にランプをつけた的士は全然見かけないなと、隔離されたホテルの部屋の窓から眼下の道路を通る車を見ながら思っていた。そういう昔ながらのタクシーだと現金が必要だし、そのおかげでぼられる可能性もあったが、今のアプリタクシーはそもそもぼるということが出来ない。決済はキャッシュレスで行わなければならないからだ。今回は受け入れ先の会社の人が払ってくれており、私はそれに乗るだけで、目的地まで運んでもらえるのだった。つまり、テクノロジーに幸あれという事だ。
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