常盤平蔵のつぶやき

五つのWと一つのH、Web logの原点を探る。

「人間に向いてない」を読んだ

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メフィスト賞受賞作
最初から断言してしまうが個人的にはこの作品は「傑作」だと思う。(※あくまで個人の感想です)いろいろと突っ込みたくなるところは沢山ある。どうひいき目に考えてもフランツ・カフカの「変身」に着想を得ていることは明白だし、主人公の息子が”人間の大きさの芋虫”ではないにしても「虫」に変身するところからも、ある意味オマージュレベルの引用なのかも知れない。実際その虫としての描写が事細かに続くのかと思っていたが、その辺はあっさり(ただし結構グロいことを簡潔に描写している)通り過ぎる。本のコピーに「あなたは三回吐いた後に涙する」というようなことを書いてあったので、そのぐらいグロいシーンが続くのかと思ったが、その辺も十分普通の感性を持った人間でも読めるレベルだと思った。では、何が「くる」のか?
世の中の引き籠もりが一夜にして異形の生き物に変身する奇病が蔓延する世界。治癒する見込みがないため、政府は異形に変貌した人間をその時点で死んだものと見なせるよう法律を改正したのだそうだ。国民の生命と財産を守る為の国家が簡単に国民を死んだものと見なすというのは、いささかこの設定も無理がある気がするが、そこは置いておいて、それでも、化け物変貌した子供を見放すことが出来ない母親の心情が「くる」のである。

 

人間に向いてない (講談社文庫)

人間に向いてない (講談社文庫)

 

 

〇主人公は主婦
息子が虫になった女の人が主人公であり、その人の視点で物語が進行する。女同士のソーシャルなエピソードが語られていく。面白いのは主人公の夫である父親は、本当にあっさり「虫」化した息子を「無視」する。それ以前のエピソードとしても息子が飼っていた犬を山に捨てたりと相当に情の薄い人間として描かれる。父親不在の世界での物語なので解決や探求の方向には進まず、主人公やその周りの登場人物がひたすら現状に振り回される姿が描かれる。しかし、そもそも「虫」になることも問題だがそれ以前に引き籠もりであったり、家庭内暴力であったりとそれぞれの母親は子供との問題を抱えており、その子供に「変異」が起きたことで、問題は修復不能のまま固定されたのがこの本のストーリーである。

〇ラストに向けて
文体としては、主人公を始め、主人公を取り巻く女性達の内面はそれぞれの章で視点から語られるが、最後まで作者からも謎として扱われたまま終わるのがやっぱり父親である。ネタバレなのであまり言えないが、やはり「父親=世界システム」という図式で解釈させていただくと、女性や弱者を阻害する今の社会システムが本当の敵であり、それに対して天罰が下ればいいと言うのが作者の考えなのかも知れないと思った。