常盤平蔵のつぶやき

五つのWと一つのH、Web logの原点を探る。

酒は飲んでも呑まれるな、という言葉に尽きる〜「アナザーラウンド」を観た

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○ポスターに写っている人々?
マッツ・ミケルセン主演である。私としてはPS4のゲーム「DEATH STRANDING」に出てきた俳優さんという認識なのだが、この映画の公式サイトを見ても小島監督が絶賛していた。
しかし、観に行くきっかけとなったのはこの映画の公式サイトではなく日経の映画評欄である。星五つという評価だったのでこれは観なければと思ったのだ。吉祥寺パルコの玄関横のモニターに映るポスターには、マッツがシャンパンの瓶からラッパ飲みしており、周りに白い学生帽のようなものをかぶった若者たちが写っている。
タイトルの「アナザーラウンド」とは英語のニュアンスとしては「もう一杯!」ないし「もう一軒(いこか)!」的なものがあると聞いたが、もともとのタイトルは「DRUK」で、デンマーク語では「暴飲」的な意味のようだ。
繰り返しになるが、これを観に行く事にした切っ掛けは、日経の金曜日の夕刊文化欄に映画評のページで五つ星だったからである。この評価は「必見!」レベルのものなので、是非とも映画館で観ておきたいと思ったのである。
映画館は先述の通り吉祥寺のUPLINKで観た。以前にサウナの映画(タイトル忘れてしまいました)や「ゴーストストーリー」などを観た場所なので、若干の不安はあったが本作に関しては杞憂であった。胸をはって万人に薦められる映画だと思う。

 

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○あらすじ(ネタバレ注意)
さえない高校の歴史教師であるマッツ・ミケルセンは、ある日同僚の心理学の先生から、有名な心理学者が提唱している「血中アルコール濃度が0.05%だと精神に良い」というような事をきく。家庭や学校であまりにも切羽詰まっていたのでそれを試してみる事を思い立ち実際にトイレでウオッカの瓶を煽ってから授業に臨む。その結果がとても良いように感じたため、仲の良い同僚にその事を話すと、同僚の仲良しの二人(哲学と体育の教師)も参加すると言い出す。最初にそれを伝えた心理学の先生は、ただの思いつきではつまらないので、キチンと研究論文にしようと提案する。四人は決められたルール(血中アルコール濃度は0.05%以下にする。呼気でアルコール濃度を計測する機械でキチンと測定してその濃度を守る。飲酒するのは仕事中、夜八時以降は逆に呑まない、など)に基づいて飲酒してその効果を報告することにする。第一段階はとりあえずうまく行った。さあ、その次は? 血中アルコール濃度の最適値は個人差がある。じゃあ、それぞれが一番ちょうどいいと思う量まで呑んで見よう……

全然関係ないが、物語の冒頭で三人の同僚教師とテーブルを囲んで食事をするシーンで、最初は一人だけ酒を飲まないと言っていたマッツ・ミケルセンが、一杯ワインを飲んで溜まっていた鬱屈を吐き出すシーンは、DEATH STRANDINGの演出を見慣れた私にとっては、どれだけ大変なことがこれから起きるのか? と思わされたが、ごく普通の中年高校教師の悩みなので拍子抜けしてしまった。

 

 

 

 

○酒飲みならみんな知っていること
海援隊の「母に捧げるバラード」という歌の中には武田鉄矢の語りのパートがある。その中に「あの日父ちゃんが酒ば飲んで帰ってこんやったら、あんた生まれとらんとよ」という母が語っていると思われる台詞がある。
恐らく地球上の全ての酒飲みは、人生の諸問題の解決を酒に頼るとどうなるか? を知っていると思う。酒を飲んで、何か物事がうまく行くと言うことは無く、むしろトラブルを増やすものであると。
私も、飲酒したことで様々なトラブルを引き起こしてきたと、ここで正直に告白しておく。学生時代には酒が元で救急車に乗るハメになったこともある。そのときまでは救急車というものは119番に電話すると、タダで来てくれるものだと思っていたが、実は後から料金を徴収されるものだと言うことも知った。翌朝病院からはタクシーで帰宅したが、その代金の10倍の請求が来たことを思い出す。その時ほど、酒飲みなら皆知っているあの名言「酒は飲んでも呑まれるな」を噛みしめたことは無かった。

 

 

 

 

○苦労の後で(ネタバレ注意)
映画の中ではその後いろいろあって、冒頭のポスターに描かれている場面のハッピーエンドへと向かう訳だが、まさに酒というのはいろいろな苦難を乗り越えたあとで、その歓びを分かち合うために皆で酌み交わすものであろう。
ポスターではラッパ飲みしているだけだったが、実際のラストシーンでは酔っ払ったマッツは軽やかなステップで踊るのである。酒を飲んだ時の高揚した気分を体現するかのような、上手いのか下手なのかよくわからないステップで学生たちの間をすり抜ける。
困難を乗り越えた後の美酒に酔いしれたその後は、再び日常の様々なよしなし事に翻弄される日々がやってくるに違いない。それは映画を観ている我々も同じだ。だからこそ、一時の幸福に酔える瞬間が限りなく大切だ。
我々が、現在のパンデミックから抜け出して、そのような瞬間を味わえる時が来るだろうか。東京の新規感染者数もようやく収まって来たが、第五波の次には第六波が来るだろう。待ちきれず暴飲してしまいそうで怖い。