常盤平蔵のつぶやき

五つのWと一つのH、Web logの原点を探る。

「アナイアレイションー全滅領域ー」を観た

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〇かすかな記憶
前回のブログで、女優(ソノヤ・ミズノ)のつながりでこの映画にたどり着いたことを書いたが、しかしWikipediaでこの映画のあらすじを読んでいて何か聞き覚えがあった。それが映画ではなく原作本の話だと思い出し、基本読書のバックナンバーを検索してみたところやはり「面白い本」と言うことで紹介されていた。確かに、そのブログを今読んでも面白そうだし、これは観るしかないとおもってNetflixを立ち上げた。主演女優がナタリー・ポートマンと言うことに一抹の不安を覚えつつ再生を開始する。

 

 

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 ※この映画と同じ監督が撮った映画でした。これにソノヤ・ミズノが出ていて、ソノヤ・ミズノラ・ラ・ランドに出ていて…同じくラ・ラ・ランドジェシカ・ローテがでてたから「ハッピーデスデイ」につながる……

 

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〇導入部のあらすじ(ネタバレなし)
主人公のレナ(ナタリー・ポートマン)は生物学者で元軍人という不思議な(しかし日本の漫画やSFではよくある)設定だ。夫も軍人で、一年前極秘任務に出たまま行方不明になっていたのだが、突然戻ってくる。しかし何か様子が変だ。そう思っているうちにぶっ倒れたので救急車を呼ぶと、搬送中に警察の特殊部隊に捕まって謎の基地に連れて行かれる。その基地はアメリカのある場所で起きている怪異現象を解明するために作られた場所で、これまで何度も調査隊を送り込んだが、誰も帰ってこない。実は夫もその調査任務に行っていたことがわかる。自分自身もその調査隊に加わることを決意するレナ。しかしその調査の先に待っていたものは……という感じだ。

 

 

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ナタリー・ポートマンに対する不安はこの映画に由来している。いや、レオンのときは本当に可愛かったですよ。 

 

 

〇ここから先ネタバレになります
やはりストーリーのネタバレはミステリーの犯人を言ってしまうようなもので、作品の命を脅かす事になるのでやらない方がいいのではないかと最近は思っている。しかし、ここから先はどうしてもネタバレしないと書けないのであしからずご了承ください。(恐怖や謎を楽しみたい人は先に作品を観ることをおすすめします)
いわゆる全滅領域に入った調査隊は様々な現象に襲われる。この感じどこかで……とまた思い出したのが「裏世界ピクニック」だ。廃墟に探検に行き怪異現象に出会うと言う点ではこの二つ作品はどこかでインスパイアされたりしたりと言うことがあっても不思議ではない。(原作も同じ早川文庫から出ている)しかし「全滅領域」と「裏世界」はかなり似ていると同時に違う部分もある。その部分について書いてみたい。いろいろな点があるがその中からとりあえず、同じ要素としてはそれぞれが出会う「怪異現象」、似て非なる要素としては「百合要素」だが、それぞれに逆の要素もあると思う。

 

裏世界ピクニック コミック 1-4巻セット

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〇その一「怪異現象」
「アナイアレイションー全滅領域ー」も「裏世界ピクニック」も異界に入っていくと言う点では共通している。前者の方は「シマー」と呼ばれる光に包まれた領域、後者の方は「裏世界」あるいは「Ultra Bule World」と呼ばれる世界だが、そこでは空気もあり一応普通の物理法則も通用する世界だが、「シマー」のほうはあくまでこの宇宙と同じだが異なる力がやってきたという感じだ。「裏世界」のほうは似て非なる世界。逆に言えば似ているが異なるルールで出来上がっている世界という感じで、正に一見似ているように見えるがで本質的には全く別方向の世界設定だと思う。しかし、その世界の根本の設定は異なるが、物語の中盤に「人の形をした植物」が出てくるのを見たとき強いデジャブを感じだ。異世界の人間が空魚の右目でみるとそういう風に見えるシーンがあるのだ。日本には「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という言葉があるが、空魚の見え方はこちらに属すると思う。しかし、レナ達一行がみた「人間の形をした植物」はあくまでも遺伝子の中に人間の形を形成する要素が混ざってしまったからと言う解釈である。そして逆に隊員の一人は自ら植物になる事を受け入れて手足から葉っぱが生えてくる。これはギリシャ神話のダフネの話を彷彿とさせたが、植物に変わる隊員はアポロンからの求愛を拒んでいるわけではなく、そもそも自傷癖があり、人間である事を常々やめたいと思っていたような人であった。このキャラクターには空魚と少し共通点がある。空魚も一人で異世界に行く理由は、現実世界に居場所がないからだ。

 

 

 

 

 

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裏世界ピクニック4 裏世界夜行 (ハヤカワ文庫JA)

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〇その二「百合要素」
レナ達一行が調査隊として行く前には男性の兵士ばかりが調査隊として派遣されていたよう(ここ確証ありません)だが、レナを含む五人は全て女性である。初めてレナが一緒に行く四人と出会う場面で、その中の一人の発言からその人物がLGBTである事が示唆されるが、レナ自身は結婚していたこともあるぐらいでそういう嗜好はなさそうである。しかし、五人が隊列を組んで進んでいくところを引いた絵としてみてみると、全員が女性というのはなぜだったのか?そこに明確な理由はなかったと思う。(原作には書いてあるのだろうか?)結論から言うとこっちの映画に百合要素はない。しかし、なぜ女性だけの編成にしたのか?には何かしら意味があったような気がする。劇中では、この調査隊に志願した四人はいずれも生きることに希望を持てない、自殺願望(人生を破壊したいという願望)のある女達という設定だった。この部分劇中で、隊長とレナが話し合うシーンがあるの間違いない。レナ自身も実は大学の同僚と浮気しており、それが旦那にばれている。そのため旦那(ケイン…俳優はオスカー・アイザックスターウォーズの789に出てきたパイロットでフォースのない人)に絶望されて、そのまま旦那は極秘任務で行方不明になって……というバックストーリーがあるのである意味レナも生きることに絶望しかけているのだろう。でも一縷の望みをかけて旦那との関係を修復したいと思っている。ここがレナだけが唯一シマーから帰還できた理由なのだろう。(その部分もラストシーンを見ると謎が残るが……)
一方、「裏世界ピクニック」では異世界に行く理由は、鳥子が愛する閏間五月を探すことだ。今のところその閏間五月がどうなったかは明らかにされていない。しかしその構図は現時点五月は不在ではあるが、空魚、鳥子、五月の百合的な三角関係になっている。

 

 

 

 

〇原作を読んでみたい
再び、最初の基本読書での紹介記事に戻るが、どうも原作はレナの一人称による語り(レポート?)の様だ。劇中でも最後にレナが隔離された部屋でインタビューを受けているが全てを見てきた後で語ると言う形式を取っているようである。つまり、映画だけ観ると収拾のつかない様に見えるシマーの拡大も、なんらかの結末を迎えるのかも知れない。しかし、「裏世界ピクニック」にも共通していることだが、恐怖というのは理解できないものに対する時最大になると思われるので、少しずつ解明が進むのは物語(異世界)の魅力を少しずつ減らすトレードオフと同義だろう。その部分をどのように書いているのかに注目したい。……それにしてもソノヤ・ミズノはどこに出てたのだろうか?

 

 

huyukiitoichi.hatenadiary.jp

全滅領域 サザーン・リーチ①
 

 

「ハッピー・デス・デイ」「同・2U」を観た

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○ホラー+青春ドラマ?
誰の記事だったか忘れたが、ネットでこの映画(とその続編)が推薦されていたので、観ようと思いNetflixで検索をしてみたが見つからなかった。コロナによる自粛生活の娯楽としてNetflixに加入したものの、この映画はNetflixにはなかった。なかなか一つのサービスで完結できないようにできているのだろう。映像によるエンターテインメント市場は大きいので、各社それぞれが囲い込みやアライアンスのような縄張りのなかで、ラインアップが決まっているんだと思う。仕方がないのAmazon prime Videoで観た。
しかし、これが本当に面白い映画で、久々に映画を見終わって晴れやかな気持ちになった。

 

 

 

ハッピー・デス・デイ 2U [Blu-ray]

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〇一作目のあらすじ(ネタバレしないように)
女子大生(ツリー……実は役の本当の名前がテレサ・ゲルブマンというのはWikipediaを見て初めて知った)が死ぬとある一日の朝にループして戻ってしまう。ループしないためには殺されない様にしないといけない。そこで、自分を殺す人間(犯人)を探すと言うのがストーリー。
こう言う「オール・ユー・ニード・イズ・キル」の死ぬとループするというギミックを利用してミステリーを書いたように思える。(違うのだろうか?)オール・ユー・ニード・イズ・キルの方は、おそらくFPSシューティングゲームコール オブ デューティとかバトルフィールドとか)をやった感覚をそのまま映画のシナリオにしたんだろうなと思わせるものだったが、そのギミックだけを取り出してこういう映画に出来るんだというのは大変素晴らしいと思った。
主人公のツリーを演じているジェシカ・ローテも最初部屋に来たライアンに「Bitch」と呼ばれるが、これはオール・ユー・ニード・イズ・キルの「戦場の雌犬(Bitch)」のことを暗に指していると思われる。そのツリーが毎回目覚めるときに寝ている(実はライアンの)ベッド横の壁には「バック・トゥ・ザ・フューチャー」と「ゼイリブ」のポスターが貼ってあるのである。このネタというか、設定は一作目ではあまり生きてこない気がするが、実は二作目では重要な意味があったと思う。

 

 

 

 

ゼイリブ 通常版 [Blu-ray]

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〇二作目のあらすじ(ネタバレなしで)
二作目では”なぜツリーは死んでループするようになったか?”がちゃんと明かされる。それには実は一作目でほとんどからんでこないライアン(とその仲間)が重要な人物になっている。一作目を観終わってかなりスッキリしたが、二作目はそれ以上の感動が待っていると言うお得作である。それ以外にも一作目のストーリーの要素を本当に上手く回収(ここ重要)しており、これ最初から二作品セットで作るつもりで作ってたんじゃないかと思うほどだ。
実際にどうなのかはわからない。二作目の制作年が一作目の公開から二年たっているので二作目も全く一から作り直したのだと思う。それぞれの登場人物のビジュアルは再び二作目でその役をやるまでに二年もブランクがあったことになり、それにしては画面上で全く時間が経ってないように思えるのは見事としか言いようが無い。この感覚はバック・トゥ・ザ・フューチャーの二作目と三作目を観たときと同じものだ。

 

 

 

〇三作目は?
今のところ三作目を作っているという情報はない。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」も三作目は新しいキャラクターや要素を入れてタイムトラベルものの面白さを極めてくれたが、是非こちらも三作目を作ってループものの面白さを極めてもらいたいと思う。二作目のラストでアレがあーなってとなると、こーなる展開もアリかなーとかいろいろ考えるが、きっとその予想を上回る展開にしないと二作目までの傑作さに水を差すことになりそうで、制作を考えておられる方々も苦労していることと思います。

 

〇その他(Wikipediaにあったネタ)
殺人鬼が仮面をかぶってるのだが、それが赤ん坊の顔をモチーフにした、大学のマスコットという設定なのだが、バースデイがキーワードのこの映画なので「赤ん坊」なのはそこから来てるのかと思ったが、Wikipediaによると最初は豚のマスクという案だったそうである。また、このマスクのデザインをしたのはあの「スクリーム」のマスクをデザインした人と同じだそうだ。どんな分野でもその道のプロになるとそういう仕事が来るというのは面白と思った。
主人公を演じたジェシカ・ローテが「ラ・ラ・ランド」に出ていたと言うことを知り、あれ、どの役の人だっけとWikipediaを調べて「エマ・ストーンのルームメイト三人に一人」と言うことがわかったが、その流れで、残りの二人うち一人が日系人ソノヤ・ミズノ)で、その人が出ている映画「アナイアレイション ー全滅領域ー」という映画がある事を知り、面白そうなので観てみようと思ってNetflixを検索したら今度はあったので次に見ようと思っている。

 

 

 

コロナ禍による自宅待機で思い出したこと

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○コロナ自粛でほぼ一ヶ月が過ぎた
4月の頭から在宅勤務となり一ヶ月以上が経過した。今年の一月にちょうど引越をして、以前住んでいたアパートからちょっと広いところに移ったのだが、本当に引っ越ししておいて良かったと思う。以前のブログにも書いたとおり引越後にかつてない腰痛に襲われたが、それを差し引いてもこの軟禁生活である。以前の生活スペースギリギリという狭いアパートでは耐えられたかどうかわからない。しかし、更に昔の暮らしを思い出してみると、自分はこれと似たような経験を何度かしてきているということを思い出した。

 

tokiwa-heizo.hatenablog.com

 

 

〇製造委託先工場での生産立会のための海外出張軟禁生活
現在勤めている会社は工場を持たないファブレスなので、製品の製造は全て製造委託先の工場で行われる。試作から量産というタイミングで製造に立ち会うため中国やベトナムの工場に出張するために数日から数週間、長いと一ヶ月以上ホテルに泊まって毎日工場へ往復する生活になる。そもそも街に出てても、言葉も通じないし売ってるものも違うため、基本的にはホテルに自主的に軟禁状態になる。去年の夏頃のブログにその辺のことを書いているが、今読み返してみるとそこそこ楽しんでいるように見える。
だが、滞在中は結局帰国する飛行機に乗る日のことを常に励みにしているようなところがあると思う。今回のコロナ禍では昨日39県で緊急事態宣言が解除され、それ以外の都府県でも「出口戦略」などの言葉が飛び交い始めているが、そういう軟禁生活の終わりを目標に今を耐えるしかないのだろう。いずれにしても、次に述べる前職での状況に比べたらこれでもかなりましであった。

 

tokiwa-heizo.hatenablog.com

 

〇自社工場での生産立会のための海外出張軟禁生活
前の職場では、自社工場で製造委託を受ける側だったこともあり、もっと厳しい軟禁生活を送っていた。その工場の中に出張者のための寮があったので、朝起きて工場に向かい夜また寮に帰るという日々が続くと、本当に工場の敷地の中に軟禁された状態になるのである。
寮の掃除や洗濯もやって貰えるし、食事も基本的に三食工場の食堂に行けば食べられるため、工場の敷地の外に出る必要がない。寮の一階の娯楽室には本棚があり、これまで出張できた人間が持ってきて読み終わった本や漫画、DVD(もちろん中国で売っている海賊版)が大量にあった。最近では工場から歩いていけるところにスタバも出来たらしいが、私が滞在していた頃は古い方の深圳空港まで一時間ぐらいかけて歩いて行ってコーヒーを飲んでいたが、それもそう頻繁に出来ないので、基本寮の部屋で自分で日本から持ってきたコーヒーを淹れながら娯楽室のアイテムを持ってきて休日をやり過ごしながら、やはり帰国の日を待っていた。しかし、この暮らしも次に述べる経験から比べたら幾分ましであった。

 ※当時の暮らしに関しては拙著に詳しく書いています。

家電OEMの会社で働くあなたのための参考書
 

 

陸の孤島海上での監禁生活
学生時代、私が所属していた学部では「航海実習」というものがあった。遠洋漁業ができる大型の漁船に乗って2ヶ月間過ごしたことがある。船の中は三交代制であり、乗組員は全て24時間のうち8時間は船内活動に従事しなければならない。基本的には『ワッチ』と言って操舵室から周囲360度を見張るのである。船乗りにとって何が怖いかといえば、外の船にぶつかることなのだ。衝突イコール沈没である。タイタニック号のように海に沈んでしまう事を避けるため、昼夜なく周囲の海を見張る。本当に暇である。太平洋の真ん中に来ると、周囲に本当に何もない。余談であるが、私はこの時初めて「太平洋」という名前の由来を知った。海面が湖のように全く波のない状態になることがあるのである。本当に不思議な体験であった。

 

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〇陸酔い
「天下太平」という言葉があるように、基本的に「太平洋」とは穏やかで平和な状態の海なのである。しかし、それとは逆に低気圧の中を通って、文字通り船がひっくり返るかと思うような荒れた海も経験した。
もともと、乗り物酔いしやすい体質なので陸を離れて一週間ぐらいは船酔いがひどく、トイレに吐きにいって、そのままトイレの床に寝たまま揺られていたこともある。しかし、2週間も過ぎると、船がひっくり返るような揺れかたをしても、びくともしなくなる。人間の適応力恐るべしと思った。逆に陸に上がったときに地面が揺れる感覚がありそれを「陸酔い」というと言うこともその時知った。

 

 

〇タンカーに乗った人
なぜこのような経験を思い出したかというと以下の記事を見たからである。

www.technologyreview.jp


この人はタンカーに乗客として乗るという基本何もすることがない本当に退屈な5週間を過ごすことになった訳だが、私の経験は2ヶ月だったが毎日やることがあり、寝ることすら義務だった。

 

〇現在の軟禁生活
そういうこれまでの経験を思い返すにつけ、いまのコロナ自粛軟禁生活はぜんぜんましである。いや、むしろ快適と言ってもいいぐらいである。リモートワークに適応しすぎて、会社に再び通勤しなければなくなったときに通勤電車などで「外酔い」を起こしそうなぐらいである。まあ、あの満員の通勤電車に慣れる事もかなり異常だったとは思うがそれもアフターコロナの世界から見れば過去になるといいなと思う。

「デス・ストランディング」をプレイした

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〇STAY HOME
コロナで「ステイホーム」が叫ばれる中、恐らくオタクと呼ばれる人たちにとっては、あらゆる活動がはかどってしょうがないと思うがいかがだろうか。「MITテクノロジーレビュー」の記事でフィル・コリンズの「In the air tonight」にあわせて「私は生涯をかけてこの時がくるのを待っていました」と歌う人の映像がTikTokで180万回(?)再生されたというような記事があった。実際にYouTubeでこの曲を聴いてみたけど最初は何を言っているのかよくわからなかった。いろいろ調べていくうちにこの曲自体の背景とか別の方向に脱線していきそうになったのでとりあえずそっちの追求はやめた。(興味のある方は曲名と歌詞で検索してみて下さい)要するに、家に引きこもっていたい人(オタクとかナードと呼ばれる人)は世界中にいて、「家にいろ」と言われた事の喜びを噛みしめて「私は生涯この時を……」ということのようだ。

 


Phil Collins - In the Air Tonight

 

〇絶滅の危機に瀕する人類
コロナウイルスのおかげで人類は絶滅することはないが、このゲームの世界はなにか大きな災害(?)が起きて、人々がバラバラになった北米大陸が舞台である。そこで主人公であるサムは「伝説の配達人」として依頼された荷物を配達する仕事をしている。ちょっと前のブログにも書いたが、ゲームの冒頭でいきなり「遺体」を「焼却場」に運ぶことを依頼されるという衝撃的な展開があり、それをゲーム内とはいえ徒歩で運ぶのである。途中BTと呼ばれる地底から湧き上がってくる亡者のようなものに襲われるわ、荷物配達中毒の盗賊に追っかけ回されるが、こちらにはほとんど対抗手段がなく逃げ回るだけなのである。その前にやっていた「DAYS GONE」に比べて、あまりにも辛い展開に心が折れて「十三機兵防衛圏」に行ったわけだが、その後改めて続けてみると、実はやればやるほど楽しくなっていくという中毒性の高いゲームだった。

 

 

 

 

 

 

〇エッセンシャル・ワーカー
コロナ禍によってにわかに脚光を浴びた言葉として「エッセンシャル・ワーカー」というものがあるが、正にこのゲームの主人公はエッセンシャルワーカーの一つとされる「配達人」であり、人々はそれぞれシェルターの中に引きこもって暮らしている。配達に行ってもホログラムでしか応対しないなど、まさに今の世相を先取りした展開だ。この世界にはウイルスが蔓延しているわけではないが「時雨」という浴びると、急速に浴びたものの時間を奪うという恐ろしい雨が頻繁に降っており、その雨や先ほどのBTという化け物を避けるためにシェルターに住んでいるという設定のようだ。そんな世界のなかで、人々をつなぐ配達人である主人公は正に必要かつ欠くべからざる存在である。このゲームを企画した小島監督が、まさかこのような事態を想定していたわけではないと思うが、やはり稀代のクリエーターは否応なく時代とシンクロしてしまうものなのだろう。

 

jinjibu.jp

 

〇ストーリーについて
恐らく、きちんとエンディングまでたどり着いて全ての物語を観終わったと思うのだが、残念ながらストーリーについては語ることが出来ない。それはやった人間の数だけある、というようなものではなくて、確かな演出に基づいて一つのドラマが展開されて、終結を迎えるのだがあまりに独特な世界設定と解釈が過ぎて、何を語っていいのかわからないのが正直なところだ。MGSVの時も途中から「寄声虫」という設定が出てきて、ちょっとついて行けなくなった事があったが、今回のゲームは正にそういう「設定」が前面にでており、そこをどう受け止めるかでストーリーについては印象が分かれるだろう。有名な俳優(ノーマン・リーダス、レア・セドゥ、マッツ・ミケルセンなど)や映画監督(ギレルモ・デル・トロニコラス・ウィンディング・レフン)が多数出演しており豪華な顔ぶれを堪能しながら小島監督の作った変な世界を存分に味わうことが出来る。

 

www.cinematoday.jp

 

〇やり終えた感想など
最初にも書いたように、このゲーム、進めていくと困難を乗り越えて荷物を配達することがもたらす満足感が、それ以外のゲームでは味わえない不思議な快感を与えてくれる。「DAYS GONE」でも、誰かに何かを届けるというミッションはいくつかあったと思うが、それをすることでゲーム内でのイベントが進みストーリーが展開していくために必要なアイテムだった。ところが、このゲームではサムが運ぶものは確かにゲームのストーリーを進める上で必要なアイテム(フラグ)というものもあるが、そうでない誰がそれを運んでもいいアイテムというものが存在する。また、いろいろな登場人物がなぜか落としてしまったアイテムというものもフィールド上に散らばっている。それを届けるかどうかはプレイヤー次第だ。そしてそれを届けるとNPCから感謝されるが、ストーリーの進行上必須というわけではない。また、ゲーム内のフィールドにある「国道」や「セーフハウス」などの設備は、自分だけでなく、現実のネットワーク(ゲーム内のカイラル通信ではなく)でつながった他のプレイヤーに感謝されるのである。このようにゲーム内の行動がゲーム世界を根本から変えていくという展開のゲームは希有であると思う。

 

 

【PS4】DEATH STRANDING

【PS4】DEATH STRANDING

  • 発売日: 2019/11/08
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〇再びステイホーム
この「公式に引きこもりが推奨される世界」が始まって、一旦は処分したテレビを購入した。そのテレビにNetflixボタンが着いていたので、その誘導にはまり契約してしまった。実はNetflixに入ったら見たいドラマがあったのだ。それは「ストレンジャー・シングス〜未知の世界〜」である。本当に面白いので、内容と感想に関しては後日書きたいと思うが、ドラマの舞台が80年代であり、正に「後ろ向きな興味」にドンピシャなのである。先日シーズン3の途中まで観たが、その中でヒロインがブレインダイブのようなことをした際に「ビーチ」に行くシーンがあった。これがただのシンクロニシティなのか、どこかでこのゲームの影響を受けたのかはわからないが、やはり優秀なクリエーターが作るものはどこかで通じ合っているのかもと思った。

 

www.netflix.com

「十三機兵防衛圏」をプレイした

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◯一応エンド
在宅勤務になって通勤時間がなくなりそれを別の時間に充てることが出来るようになった。私は常々通勤時間は「地球上でもっとも貴重なリソース」である時間の無駄遣いの筆頭だと考えていたので、COVID-19による在宅勤務での通勤時間の消滅は本当に歓迎すべき事だと思う。そのおかげでゲームに充てる時間が増えたために、一応「十三機防衛圏」もエンドまで進めることが出来た。まだ、おまけの戦闘には手を着けていないが、ネットで見る限り、それをクリアしたところで何か別のサイドシナリオに行けるわけでもなさそうなので恐らくこの先もプレイしないだろう。

 

 

十三機兵防衛圏 - PS4

十三機兵防衛圏 - PS4

  • 発売日: 2019/11/28
  • メディア: Video Game
 

 

 

〇先に感想など
ネタバレを含むいろいろを書く前に、全体をプレイし終えた感想を書くことにする。2Dベースで作られた(でも本当は3D)グラフィックは本当に美麗で、ドット絵世代というか、2Dベースのゲームからずっとやってきた人間からみると究極進化形だと思う。

淡い水彩のようなタッチで統一された世界にどっぷりと浸ることが出来て、なおかつ基本的に80年代の世界観(後ろ向きな興味に100%マッチ!)なのでちりばめられた小ネタ一つ一つが心地よい。久々にプレイしている時間が「DAYS GONE」のように殺伐としたものにならず、心温まる時間であった。

 

 

 

 

〇内容について(ネタバレになります)
「NieR:Automata」のように、地球上の人類はとうの昔に滅んでしまっている、恐ろしく遠い未来の話で、人類はその子孫を地球ではない星に移住させることで生き延びさせるための計画を立てた。しかし、このままの歴史の延長線上で文明を持ち込むと当然ながら、また滅びの道をたどることになると考えた科学者達は、一体どの時点まで歴史を巻き戻してから始めたらいいのかと考えて、シミュレーションのために時代を40年ごとに区切りそれぞれを仮想世界として構築した。

この仮想世界はまさに映画「マトリックス」と同じで脳内にしか存在しない。その事を利用してそれぞれの異なる時代(仮想世界)を行き来できるように「(見せかけの)タイムトラベル」ができる。実際にはタイムトラベルしていないので当然ながらタイムパラドックスは起きない。

登場人物達の一番の問題は、このシミュレーションのなかに、タワーディフェンスゲームのシステムを流用して組み込んだソフトウェアエンジニアがいて、その結果、このシミュレーションをクリアするためには、その仕組みを利用してシステムに勝つ必要があるということだ。

 

 

 

 

〇ある種の夢オチ
映画「マトリックス」では、マトリックスから出てリアルな「世界」に来てから、再度マトリックス世界に入って戦う部分が素晴らしいアイディアだったが、このゲームは最後のオチとして使われているため、培養器のようなカプセルから出て、5年後に再度仮想世界へ戻る部分は後日談的な扱いになっている。……あれ?ここまで書いてみてふと思ったが、おまけ的戦闘(WAVE)がまだあるけど、アレはそういう一旦外の世界を知った上で戦うという設定なのだろうか?
ゲーム内容が様々な映画や時代のオマージュにあふれており、それらを上手く組み合わせて極上のストーリーに組み上げられている。このゲームのシナリオを考えた人は本当に凄いと思う。そしてなにより「後ろ向きに前に進む興味」の今の私にとって”ド”ストライクなストーリーであった。

 

 

マトリックス (字幕版)

マトリックス (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 

〇その後
このゲームを終わったあと何をプレイしようか考えた。とりあえず高い金出して買ったしなーと思って「デス・ストランディング」を立ち上げてやってみたら、最初はただ単にお使い(配達)をするだけの辛いゲームと思っていたが、それはあまりに「DAYS GONE」にはまりすぎていたために、そのギャップに拒否反応が出ていただけだということがわかった。あるイベントを過ぎたところで俄然面白くなってきた。やっぱり小島監督すげぇわと思わざるを得ない展開になってはまっている。

 

 

 

「COVID-19」という歴史の転換点

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〇ステイアットホーム
コロナウイルスが全世界を席巻している。なにかSFのような事態が実際に起きている。自分が高校生ぐらいの時には、ウイルスのせいで学校が休みになるなんて、本当にSF小説か漫画の中にしかなかった。それが実際に起きている。漫画と言えば「AKIRA」が現在を先取りした展開として話題になっているが、とにかくウイルスの蔓延を防ぐ方法は「家にいて下さい」しかないというのが何とも情けないと思うのは私だけだろうか。
それでも、21世紀らしくいろいろなIT技術を駆使して、家にいながら仕事が出来たり、買い物が出来たりするのは私の子供の頃とは違うとは思うのだが。(AKIRAの中にもスマホは出てこない)

 

gisanddata.maps.arcgis.com

 

 

 

 

不幸の手紙
昔「不幸の手紙」というものがあった。今もあってもおかしくないが、見かけない。かつて私のところに一回だけ来たことがある。小学生の頃だ。その頃は学級名簿というものがあり、クラスメイトの住所や電話番号が載っていた。私のところに来た不幸の手紙は確か鉛筆書きで、男の子と言うよりは女の子の字だったと記憶している。どこかに保管しておいたと思うのだが紛失してしまったようだ。
その手紙が来た当時も今も同じ感慨を持ってその事を思い出すのだが、この「不幸の手紙」というものを駆動する論理には感嘆せざるを得ない。自分のところに来た不幸(その手紙が来た時点で不幸だ)がそれ以上増大しないように、他人に不幸を押しつけるという負の連鎖である。どこまで行ってもマイナスだが、唯一得をする人がいるとすれば、私は郵便局だろうと思っていたが、郵便局にしたって無意味なトラフィックが増えるだけなので被害者とも言える。しかしながら、この不幸の手紙というものは郵便というシステムがなければ存在しない。

 

 

 

 

〇ウイルスを運ぶもの
そして、ウイルスは人間と共にしか存在しえない。どこかの人がテレビのインタビューで答えていたが、「ウイルスは人と一緒に移動する」のである。(まあ、動物全般と言ってもいいが、我々に関係のあるウイルスの話に限定しよう。)人と人とが接触することでウイルスは伝搬していく。そのため国の「緊急事態宣言」をによるウイルス感染防止対策は「人と人との接触を8割減らす」ことである。
その内訳は夜の街10割、外出(買い物や娯楽)8割、仕事4割だそうである。この「夜の街10割」というのは何を意味しているのだろうか。夜の街というのは歓楽街のことである。歓びや楽しみを売るところだ。それを求める欲望によって成り立っている。先ほどの不幸の手紙とは逆で、たとえその間に金銭のやりとりがあっても、幸福を与える、受け取る事を基盤に駆動されているのである。これはとても厄介だ。

 

stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp

 

ドーン・オブ・ザ・デッド
まだまだ今回のCOVID-19の全貌というのは見えていないと思う。ウイルスの伝搬状況から解析した株分けにしても今のところ3種類ぐらいが広がっているといわれているが、RNAが複製する際に組み替えがどんどん起こっていくので、一体いくつのバリエーションがあるかは詳細な解析を行わないとわからないと思う。変異が進むことでより危険な(致死性の高い)ウイルスに変化していかないことを祈るだけだ。
ウイルスによって人が死ぬというドラマはこれまでも何度も映画やゲームの題材として使われている。中でも一番衝撃的なのはやはりジョージ・A・ロメロ監督の「ゾンビ」シリーズだろう。私も中学生の時、友人の家でたまたまテレビでやっていたのを見たときの衝撃は忘れがたい。命からがら逃げ延びてきた仲間が死んだ瞬間からゾンビになって見境なく仲間を襲い出すという状況の恐ろしさは、これが映画であって本当に良かったと思ったものだった。そのシーンはこの映画のトリビュート作品といってもいいカプコンの名作「バイオハザード」(PS1版)にもしっかり引き継がれている。かつて同僚だった「もの」にトリガーを引かなければならない(そうしなければゲームオーバーだ)のは、例えゲーム的にはボタンを押すだけでも、心に刺さるものだった。

 

 

 

 

BIOHAZARD RE:3 Z Version 【CEROレーティング「Z」】

BIOHAZARD RE:3 Z Version 【CEROレーティング「Z」】

  • 発売日: 2020/04/03
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〇ガラス越しの別れ
NHKのニュースの中で、クルーズ船で感染し夫を失った人のインタビューがあったが、そのなかで発症した夫が病院に収容され、ICUで治療を受けるようになった後は、お見舞いに行ってもガラス越しにしか見ることが出来なかったと語っていた。そして末期には、医療スタッフが夫のベットをガラスの近くまで運んでくれて、夫の手をガラスに当ててくれたそうである。妻であるその人はガラス越しに当てた手で夫の体温を感じることが出来たのだろうか。
COVID-19では死者が襲いかかってくることはない。しかし、生者のほうから死者、死にゆく人を拒絶しなければならい事は同じなのである。そう考えてみて一連のゾンビ映画、ゲームで何度も味わった感覚の正体がわかった気がした。

 

 

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「ことばの教育を問い直す」を読んだ

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〇英語と国語
もう30年前の話になるが、中学に入り学校で英語を習うようになった。当時は自分も13歳の子供だったため、学校の授業内容がことさら不思議だとか、おかしいと思うような感覚は無かった。英語の授業には週に一度の「LL教室」というものがあり、ヘッドホンとマイクがついた机にそれぞれの生徒が座って、なぜか教材をヘッドホンで聴いたり、先生の質問にマイクで答えたりしていた。休み時間にはマイクのついたヘッドホンをかぶって「ザボーガー!チェーンパンチ!」などと叫ぶ遊びをしたことを思い出す。しかし、この本「ことばの教育を問いなおす—国語・英語の現在と未来」の中にLL教室も一過性のブームで「条件反射のように言語を習得するという根拠が論理的に破綻し」衰退したそうである。
一方国語も、中学に入って小学校の時の国語の授業で行われていた文字(ひらがなや漢字)を覚える事を中心としたものから、文章を読んで、その内容を読み取るというものへ変わった。私は最初の教材のお話で、先生の質問から、その文章が字面だけを追ったのでは読み取れない内容があるという事を知った。その時の衝撃というか驚きは未だに忘れがたい。自分の脳の中での変化なので、周りにいる人間には全くわからなかったと思う。それ以前とそれ以後では、文章を読むときの脳内の処理が変わったのがはっきりとわかった。

 

 

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〇「大村はま」とは誰か?
残念ながら私は、この本を読み始めてすぐに気がついたが、著者である3人の共通理解となっている「大村はま」の国語教育法を知らない。そのためか、本の最初の方では、読んでいて今ひとつピンとこない事が沢山あり、読むのをやめようかと思ったぐらいだ。しかし、それでも読み進めていくうちに、その事にも意味があると言うことがわかってきた。
大村はまの国語教育は実践をもって旨とすると言うことで、きちんとした定義や理論化をされていない。したがって、各の著者がそれぞれ大村の教育方法について記述するとき、断片的な実践の記録を語ることになる。そこが何とももどかしく、一体どういう指導をしていたんだ?!と思いながら読んでしまう。
最初の方こそそんな感じだったのだが、各著者が語るそれぞれの実例エピソードを何例か読んでいくうちに大村の教育方法がおぼろげながら見えてくる。実例から演繹的にその方法論が浮かび上がってくる構図だ。正にこの理解の仕方こそが、ことばの定義と、実際の用例を、帰納法演繹法を用いて往還し、それぞれのことばの正体に迫っていくやり方と相似形をなしているということなのだ。

 

 

 

 

〇ことばは世につれ、世はことばにつれ
ことばというのは一義的に定義されているものではない。辞書の定義も、実際の用例(それが元々の定義にないものであっても)からのフィードバックを常に受けて更新されていく。人によって世代を超えて使われ続けていくうちに、その用法が変容し、変容した部分をまた定義が吸収して定義も変化(進化)する。しかし一定の理論や方法であるためには、本来その要素は一義的に定義されていなければならない。この矛盾する構造を内包しているのがことばを巡る「現状」なのである。
このことは英語から日本語への翻訳、日本語から英語への翻訳と言う場合でも、やはり帰納法演繹法によってそれぞれの翻訳のアウトプットを検証してフィードバックしてより精度の高い翻訳語へと創り上げていく必要がある。最近昔の本を新訳して再版されることがあるが、村上春樹曰く、翻訳の賞味期限はせいぜい数十年であるとのことだった。世代を超えて読み継がれていく文学の翻訳もまた進化するのである。
この、ことばを巡る「現状」を見たとき私は別のことを思い出した。それは私が飽くなき探求を続けている武道についての「現状」である。

 

 

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〇普及と伝承
私が習っている武道「杖道」は普及型として、もともとは「神道夢想流杖術」を基礎としながらも、その他の様々な棒術の技法を取り込んだ上で一般化して制定された形であり、それは「杖道」に関わる人間の集団の合意によってその定義を変化させる(または時代に合ったものに変化する)ことが出来ることになっている。(現実には合意なんて関係ない政治的な思惑や一部の独断で方向性が決められてしまうとしても)その理由は杖道は万人に開かれた「公的」なものだからだ。しかし、元々の「神道夢想流杖術」は400年前に術を編み出した流祖夢想権之助の技を一部たりとも変えることなく伝承するものであった。その理由は先ほどとは反対に杖術の技は流祖から認められた伝承者だけの「私的」なものだからである。
しかし、伝承者もその免許皆伝して継承した時点で、いわば流祖から受け継いだ内容を改変していることが、伝書などからも明らかになっている。400年間伝言ゲーム(もっと濃密な時間をかけた受け渡しを行っているが)を続けてきて、最初の状態から現在の状態が全く変化しないと言うことはあり得ない。武術の技であれことばであれ、人間という器を通して伝承されるものは、そのままの形(デジタルコピーのような厳密に全く同一のもの)で次の人に渡す事は不可能だ。それは言葉が世代を超えて受け継がれて行く中で変容していく事と全く同じだと思う。伝承に変化を伴わないと言うことはあり得ない。

 

 

 

 

〇人から人へと伝えられるもの
こうして考えると、人から人へ伝えられるものはどんなものであれ、それぞれが器を持っていて、その中に入っている液体を次の人が持っている器へ注いで渡していくようなものなのかも知れない。中には凄く沢山中身の入った大きな器を持って、次の人に渡そうとしたのに、次の人が杯のような容器しか持っていなかったと言うこともあるだろう。その反対ももちろんある。先代から引き継いだお猪口の中身のようなものを樽一杯に増やした人もいたかも知れない。そうやって伝承されたものは豊かになって行くのだろう。漫画「アキラ」の中でミヤコ様が「人は生まれ持っている器というものがある」と根津に言うシーンを思い出す。その器は外からは見えないものだ。

 

 

 

AKIRA(1) (KCデラックス)

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