常盤平蔵のつぶやき

五つのWと一つのH、Web logの原点を探る。

「キャリー」を読んだ

f:id:tokiwa-heizo:20190129221035j:image

〇キングのデビュー長編
ティーブンキング著「キャリー」をベトナム出張に行く飛行機の中で読んだ。キング自身がその著書「書くことについて」の中で、人が本を選ぶ理由は、文学的な価値ではなく、飛行機の中で飽きずに読めるかどうかだというようなことを書いていたが、まさにこの「キャリー」は読み出したらあっという間に読み終わり作者の言に誤りのない事を確認した。同じく「書くことについて」のなかでキングの妻タビサは「この話にはなにかがある」と語ったと書かれていたが、その「何か」とは何だったのかを考えてみたい。

 

キャリー (新潮文庫)

キャリー (新潮文庫)

 

 

 

〇あらすじ
女子高生のキャリー・ホワイトは母親の教育が極端な解釈に基づくキリスト教のために学校の同級生からつまはじきにされている。ある日体育の授業の後で突然初潮を迎えたキャリーは、シャワー室で周りのみんなから罵声を浴びせられる。その屈辱がキャリーに幼い頃に封印してた超能力(念動力=サイコキネシス)を蘇らせてしまう。
一方シャワー室で同じく罵声を浴びせたスー・スネルはその事に罪悪感を覚える。その罪滅ぼしのため自分のボーイフレンドであるトミー・ロスにキャリーをプロムに誘うよう依頼する。トミーはそれを承諾しキャリーを誘ってプロムにでる。
以前からキャリーをいじめていたクリス・ハーゲンセンは先頭に立って罵声を浴びせていたがその事を全く悪いと思っていなかったため、体育教師のミス・デジャルダンの居残り罰を受けることを拒否し、その結果としてプロムに出られなくなってしまう。
そこでクリスは札付きのボーイフレンドと共謀してプロムでキングとクイーンにトミーとキャリーが選ばれるように工作した上で、舞台の上でキャリーの頭上から豚の血を被せることを計画する。
そしてプロムの日、思惑どおりキングとクイーンに選ばれたトミーとキャリーが壇上に上がる。まさに戴冠しようとしたその時頭上から血の雨が降る。その瞬間に全ては自分を陥れるためだったと感じたキャリーはついに己の能力を極限まで解放し、その町にいる人間全員を殺すと決意する。高圧電線を切断して通りにいる人々を感電させ炎上させるキャリー。やがてその炎がガスの本管にも移って大爆発を起こし町全体が火の海になる。それでもキャリーの怒りは収まらず、自宅に帰ると母親を殺す。さらに母親が恐れていた「酒場の駐車場にいる悪魔」をみずから「炎と剣を持った天使」になって殺すため街外れの酒場へ向かう。そこにいたクリスとそのボーイフレンドを自動車もろとも殺したところでキャリーの心臓が限界を迎える。そこへ駆けつけるスーは息を引き取るキャリーをなすすべもなく見守るだけだった・・・

 

 

キャリー (字幕版)

キャリー (字幕版)

 

 

 

〇イジメ問題をあつかった古典
この話に出てくるキャリーは、イジメに遭っている。イジメというのは単なる差別とか区別とは違うのだとこの物語の描写を読んでいて改めて認識させられた。今でこそスクールカーストなどの言葉が知られるようになり「桐島、部活辞めるってよ」は現代日本の高校におけるスクールカーストのあり方をしっかり描いている映画(らしい)がカーストなんてヒンズー教の言葉を借りてこなくても、クラスの中には自然とヒエラルキーが出来上がっていたと思う。イジメというのはそのヒエラルキーを固定しようとする運動なのだということだ。一度その地位になった人間は、そのクラスが終わるまでずーっとその地位でいることを強いられる。それを逆転するにはよほどの革命的な事をしなければならない。この物語のキャリーは超能力(念動力)を発動することによって革命(逆襲)することに成功したともいえるだろう。

 

 

桐島、部活やめるってよ(DVD2枚組)

桐島、部活やめるってよ(DVD2枚組)

 

 

〇タビサのみた「何か」
私がこの物語を読み終わって、最も初期の草稿を読んでキングの妻タビサがそこに読み取った「何か」とは何だったかと考えて、一番先に思いついたのは主人公キャリーがキングが愛して止まないB級ホラー映画のモンスターたち、フランケンシュタインやドラキュラ、狼男(怪物くんじゃないよ)半魚人(シェイプオブウオーター)などと同じような悲しい生い立ち、生誕の秘密を背負ったキャラクターとして描かれている点だ。新しいものでは「エルム街の悪夢」にでてくるフレディや「13日の金曜日」のジェイソンなど(そんなに新しくないか)、基本的にモンスターには、モンスターになった理由がある。凶悪なパワーをふるうが、それはそれまでに人々から受けた虐待の裏返しという場合が多い。まさにその形をとっていると感じた。
しかし、タビサが感じたのはもう少し違うものかも知れない。それは、主人公キャリーがもつ悩みや悲しみは多かれ少なかれ、すべての子供が大人になる前に感じる事という「普遍性」だったのではないだろうか。

 

 

TVアニメ 怪物くん DVD-BOX 上巻

TVアニメ 怪物くん DVD-BOX 上巻

 

 

 

〇少女の物語=百合?
この物語はキャリー、スー、クリスという三人の少女が描かれる。それぞれに思春期から大人になる「壊れかけのラジオ」の時期に感じる焦り、諦め、希望というものが生き生きと描かれていると思った。そしてそれはやはり昨年のSFマガジン2月号でも特集された「百合」の世界なのではないだろうか。サイキックが主人公という意味ではホラーと言うよりSFといってもいいのかもしれない。「百合」とSFは相性がいいと先述のSFマガジンでも書かれていた。それについて今年は考えていきたいと思っている。

 

SFマガジン 2019年 02 月号

SFマガジン 2019年 02 月号

 

 

 

壊れかけのRadio

壊れかけのRadio