常盤平蔵のつぶやき

五つのWと一つのH、Web logの原点を探る。

「裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル」を読んだ

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お盆前に宮澤伊織の「裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル」を読んだ。
元々ネットの記事で「百合」小説として紹介されていたので、なるほど読んでみるとそういう方面の需要もあるとは思った。しかし私の興味はネットロア(ネットロア=ネット・フォークロアを縮めたもの。和製英語のネット用語)、もしくは都市伝説のような部分であり、以前おおハマりしたゲームの「サイレン」シリーズのような部分だった。
サイレンも元々のネタは「2ちゃんねる」の書き込みだったとおもうので、今回の小説もそこは同じである。

 

 

サイレンでは「津山13人殺し」がもとになっていて、そこに八百比丘尼などの古来からある怪奇伝承などの存在を絡めた上で、異世界からの存在が現実に介入して来ていると言う話だった。ホラーとしての演出が素晴らしすぎてCMが放送禁止になったりしているが、この小説はホラー部分はかなり低めで、やはり「百合」的な二人の主人公のやりとりにフォーカスしているようだ。

 ↓ものすごく怖い 

SIREN

SIREN

 

恐らくだが、主人公二人の名前「空魚(そらお)」と「鳥子(とりこ)」というのは諸星大二郎のマンガ「栞と紙魚子の怪奇事件簿」からインスパイアされているのでないだろうか。マンガの方の二人の主人公の名前に「鳥」と言う文字はまったく使われていないが、名前に魚という漢字を入れる時点でかなり珍しいと思う。そもそも女の子二人が怪奇現象に興味を持って冒険するという話のフォーマットがそっくりだ。そういう意味では「栞と紙魚子」も百合マンガなのだろうか。

 

 

※ここからネタバレになります

第一話で空魚が「くねくね」によって行動不能にされたときに、丁度そこに現れて助ける鳥子という登場の仕方が、バディものとしての話を予感させる。そして、最終的に「くねくね」を倒すことでオーパーツが手に入り、それを研究している人間からの報酬が得られるというゲーム的なフォーマットも完成する。さらにその「くねくね」を倒す過程で異世界のものを見る能力と、触れる能力をそれぞれが手に入れる。それぞれの能力では敵は倒せないが、見ることと触れることを合わせることで、窮地を脱することが出来るようになる当たりも素晴らしいと思った。また、異世界への入り方も都市伝説からの引用で、廃墟であったり、エレベーターをある法則にそって上下させることでいつの間にか別世界へ入っている…というような描写がでてきて面白い。

この話に出てくる怪異に関して検索するとpixiv辞典にたどり着く。一見するとなんだかよくわからない絵だが、本来描き表すのが難しいような対象を萌え絵にまで持って行っているものもあり、それぞれの絵師さんたちのイマジネーションに感心するが、そういう発想もこの小説を書く上でのベースになっているのではないだろうか。

・くねくね

dic.pixiv.net

・八尺様

dic.pixiv.net

・きさらぎ駅

dic.pixiv.net

また、その裏世界のことに関してアドバイスしてくれる小桜という研究者が出てくるが、その容姿が大人なのに少女のような外観というある意味これも定番的な博士で、いってみれば「博士と助手」パターンなのだが、実はこの博士は自分は極度の怖がりで裏世界には行きたくないうえに、実はその裏世界の全容を研究していると言いながらもまだ何もわかっていないなど、全然頼りにならない。ここら辺、例えば何か裏世界の存在の法則とか成り立ちみたいなものがわかっていたら、研究者とか、オーパーツの買い取り先みたいなものにも説得力が生まれるような気もするが、二巻をちょっと読み始めて観た時点でも恐らくそれは設定されていないようだ。この話自体のベースがインタビューで描かれていたように、ストーリーを通じて「百合」をすることであり、(裏)世界の秘密を解き明かすことにないからだろう。

一巻のファイル3「ステーション・フェブラリー」では裏世界に迷い込んだ米軍実験部隊が出てくるが、この「きさらぎ駅」というのも有名なネットロアだというのを今回初めて知った。もともとの話は静岡県で女の人が夜に電車に乗ったら「きさらぎ駅」という駅に着いたという書き込みを最後に行方不明になったというものだそうだ。そういえばゲーム「Steins;Gate」でも出てきたが、アメリカのネット掲示板でも「ジョン・タイター」というタイムトラベラーの書き込みがあったという事実?から触発されているが、ネット掲示板というものは、ある意味人間の想像力がいろいろな形で発揮される場所だ。
二巻の最初でこの米軍実験部隊を救出にいく話が出てくるが、もともと沖縄にいた部隊を、裏世界にはいった「ゲート」を通じて救出する。この作者は軍事、特に兵器に関してもかなり詳しいようで、空魚に軽い銃をカスタムでセットアップするところの描写は、説得力があった。私も銃器に関してはそんなに詳しくないが、読んでいて楽しかった。

裏世界が何の象徴なのか?とかテーマは?とか難しいことを考えなくても、楽しめる話であり、今後も空魚と鳥子の冒険を読みたいと思う。