常盤平蔵のつぶやき

五つのWと一つのH、Web logの原点を探る。

「重版出来!」を読んだ(ドラマも見た)

 最近は、シナリオの勉強のためという名目で漫画も久々に買ってきて読んでいる。昔は一定の作者の新作を楽しみにして新刊の発売日が書かれた予定表を定期的にチェックしていたものだが、結婚してからは全くと言っていいぐらい漫画を買うことはなくなった。
杖道をやっていることから、ちょっと興味があった薙刀が題材になっている漫画があると京王線の電車のドアに乃木坂46のメンバーを起用した映画の宣伝として、原作のマンガ作品も宣伝されていたので全24巻を買ってきて読んでみたが、その感想はまたの機会にする。
しかし、この「あさひなぐ」を読んだことで、漫画を読みたい欲求が膨らんできたので何かないかと探していたところ、件の作品を思い出したのである。
(「あさひなぐ」に関しては別のところで書くかもしれない)
 

 

あさひなぐ(1) (ビッグコミックス)
 

 

1 .先にドラマを見た
 
重版出来!」のTVドラマは昨年ぐらいにやっていたのを後半だけちょっと観たが、その会が安井さんがキレる回だったと思う。感情を爆発させるシーンは過去のカットバックだが、大変印象に残った。
 
そこでまず、ドラマの方を観ようと思い、Amazonプライムビデオで観られることがわかったので、1話から最終10話まで観た。余談だが、日本のテレビシリーズは短すぎて海外に売り込めないという話を、シナリオセンターの講習の後のランチで教えてもらった。海外のシリーズはシーズンがたくさんあり、全部で50話とか100話とかそういう規模だが、日本のはよくて一年(子供向けの戦隊モノや仮面ライダーだ)普通の大人向けのドラマはせいぜい1クールぐらいだろう。これでは短すぎて売れないのだそうだ。おそらく、もっと長いスパンで番組枠を売り買いされているのだろう。
 

 

重版出来!  DVD-BOX

重版出来! DVD-BOX

 

 

2.ドラマの主役は黒木華
漫画を読んだ人は知っているかもしれないが、主人公の黒沢心は子熊という印象を持たれるような、元柔道のオリンピック候補選手だ。耳が稽古のためにギョウザ担っているという設定である。結構あれば実際に見るとグロいので流石にドラマでその設定は省かれていたが、それにしても黒木華は華奢なほうで、とても柔道家には見えない。しかし、これが大変素晴らしい演技をしていて、ドラマ上でよく絡む荒川良々とも絶妙な掛け合いを演じており、まずはこの主人公の演技だけで見ることができると思わせるものだった。
安井役の安田顕や五百旗頭役のオダギリジョーも原作イメージにぴったりのキャスト、編集長和田と営業部の生瀬勝彦は原作の絵面とは少し異なるが、役柄としては大変上手くこなしていたと思う。しかし、ドラマ版の一番はやはり中田伯だろう。彼の演技は漫画の中田伯そのものという感じで本当に恐れ入った。役者の名前は知らないが、あの難しい感じをよく表現していたと思う。ムロツヨシとの絡みの回も最高だった。
 
3. 次にマンガを読んだ
漫画原作の方は今すでに10巻まででていて、とりあえずそれは全部読んだ。ドラマの脚本は、7巻ぐらいまでしか出ていなかったのかもしれないが、ピークを御蔵山龍の芸術文化賞受賞をピークに持ってくる演出で、それ以外の作家のエピソードもうまく拾っていて、やっぱりプロの仕事はすごいなと改めて感心した。漫画の方は実はドラマ以外にも漫画雑誌、漫画単行本に関わる人たちがたくさん出てきて、主人公である黒沢心が全く絡まないところで展開しているエピソードもたくさんある。そういうものは勿論綺麗にカットしてドラマの脚本はできている。逆に漫画はその広がりを楽しむ展開になってきているが、そもそも主人公が既に、出版業会に関わる人々全員が幸せになれる言葉「重版出来」を中田伯の単行本第1巻で、発売前から重版を達成している時点で、その先のゴールはもうない。主人公のドラマが無い以上、周辺のドラマに広げて行くしか無いのはわかるが、どうやって落とし所を作るのかが今後作者の腕の見せ所となってくるだろう。
 
4.元ネタが何かを考える
作中の大御所マンガ家、御蔵山龍の絵は実はゆうきまさみが描いていたというのは単行本を買って初めて知ったが、その御蔵山がずっとシリーズで書いている「ドラゴンなんとか」はやっぱりDRAGON BALLなのだろうか。なんかそれだけではなく、いろいろな漫画作品の合成って感じだが。
ドラマの中と原作漫画の中で御蔵山の台詞として「作品を作るってことは自分の心を見つめ続けること」というシーンがあるが、あれを言えるのは大御所だけだとは思うが、果たしてそれを言えるような漫画家はどれぐらいいるのだろうか。
 
5.このドラマのキモはなにか?
ドラマ、漫画ともに「裏方さんのドラマ」という事に尽きる。
バクマン。」とか「G戦場のヘブンズドア」みたいなマンガを主人公にしたドラマでは無く、裏方の編集者の視点から、マンガ雑誌、マンガ業界を描いた物語だ。

 

バクマン。

バクマン。

 

 

 

 

このコミックスのカバーの紙がつるつるしている。積み上げてもちょっとずれると崩れる。本棚に立てかけてても滑っていき倒れている。漫画の中でも紙にこだわる人が出てきて、なめてみて味で紙が何かを当てられるという特技の人が出てくるが、この特殊な紙もそういう風にして選ばれたんだろうなと思わせてくれる。
 
基本シリアスな絵とギャグたっちな絵が交互に現れるが、感情が高まるクライマックスはシリアスでリアルになる。「軽井沢シンドローム」の頃のたがみよしひさっぽい。正直たがみよしひさのように、完成された線ではないので、その振幅についていくのが難しいところもあるが、それも先達がそのような様式を確立していることで読者の方にリテラシーが準備されているからであり、やはり先達は偉大なのだなあと思った。
 
もう一つの肝は中田伯のキャラクターだろう。
この漫画のかなり重要な部分を占める「ピーブ遷移」の作者「中田伯」のキャラクター造形が面白い。家庭環境による複雑な過去を持ち、明らかに発達障害である。父親、母親それぞれとの関わりが徐々に明らかになる。父は介護施設、母は再婚相手とうまくやっている。
ピーブのテーマは劇中で黒沢心がはっきりと言っている「恐怖と支配」。あのトゲの生えた触手とたくさんの目は、エゴや欲望に姿形を与えたものなのだろう。己の欲望を全うするために他者を支配する。生存のための競争の中にある生命なら、常にその力の行使を問われるはずである。
中田伯が子供の頃「犬の首輪でつながれていた」の真相を描くことで全く別の映像を見せるところはうまい。鎖は実は足首に巻かれており、首輪という時点で首に巻かれていたと想像する裏をかく描写だ。
 
6.おまけ(ドラマの主題歌「エコー」)
この曲が素晴らしい。曲中の歌詞には漫画の話は一切出てこないが、漫画のセリフ、各週のアオリ、そして主人公が机に貼る言葉等がそれぞれ「エコーを持った言葉」と考えると、非常にこの内容にマッチしている選曲だと思った。

 

ゅ 13-14

ゅ 13-14