常盤平蔵のつぶやき

五つのWと一つのH、Web logの原点を探る。

映画「メッセージ」を観てきた

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前回観た「ゴースト・イン・ザ・シェル」が久々の空振りだったのでその欠損を埋めるべく公開直後の「メッセージ」を新宿のTOHOシネマズで観てきた。

公開前に「謎の物体」がばかうけと言うスナック菓子に見えるという評判が日本で広がりそれに反応した映画の広報が監督にそう言わせるという記事が載っていたが、映画の方は難解な部類に入るもので、とても「ばかうけ」するとは思えない映画だった。

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主役の言語学者を演じたエイミー・アダムスは映画「マン・オブ・スティール」でスーパーマンの恋人役のロイス・レインを演じていた人だが、あの時の初々しい感じはなくちょっと疲れた中年女性(大学の先生なのでそれなりの貫禄がないとおかしいからだろう)に見える。実はこれが既にこの映画の仕掛けだったのだが、それは後ほど。

あらすじは、ある日、地球上十二カ所にほぼ同時に謎の飛行物体が出現する。それぞれの出現場所の国々は、なんとかしてその物体の中にいる「宇宙人」とコンタクトしようと試みる。アメリカでは言語学者と物理学者がコンビで飛行物体の中に入り宇宙人とどうにかしてコミュニケーションを取ろうと奮闘する・・・というはなしである。

二人の学者を派遣したのは軍であり、その目的は「Youはなにしに地球へ?」と聞くためだが、もちろん言葉が全く通じないため、まずは宇宙人が話している言語を解読するために言語学者が呼ばれると言う設定がリアルだ。

だいたい今までの宇宙人はE.Tにしてもすぐ英語を覚えてしまう。もしかして全宇宙でも英語が共通語なのかと思ってしまうぐらい簡単にだ。

言語を操る能力は人類には普遍的に持っているものである。なので同じように言語を使うエイリアンであっても原理的には習得可能であり、翻訳も可能である。

もう一つ、母国語では無い言語を後から習得すると思考様式に変化が生じるという説が紹介される。まずこれがこの物語の一番大きな仕掛けである。

さらにもう一つ、映画の冒頭で主人公のモノローグが入る。「記憶とは不思議である」と言った内容のものなのだが、これもこの物語の大きな仕掛けを表している。

 

***この後ネタバレ注意!!***

 

いいですかー、ネタバレをしますよー。

主人公である言語学者は、エイリアンの言葉を習得する事で、エイリアン独自の時間の解釈を習得する。そのことで主人公は自分の人生の情報を脳があらかじめ全部記憶(?)しており、それにアクセスできるようになる事で、危機を乗り切るのである。

映画も小説も始めがあって終わりがある。時間の流れは基本的にそう進むものであると観ている人間は考える。それを逆手に取った仕掛けなのである。

映画の冒頭、主人公の「娘」の映像がフラッシュ的に流れる。生まれてからおそらくティーンエイジの時に死んだと思われる映像だ。ここでこれを観た観客は、すでに娘を産んで、さらに失ったのだなと解釈する。実はそれはまだ「これから起きる事」なのだ。

何だかちょっと騙された気分になるのである。シックスセンスも、主人公がすでに死んでいたという最大の仕掛けがあるが、確かに幽霊が主人公というのは前代未聞であるが、そのことが映画のラストで観客にわかったとき、全ての謎が解けるという意味では気持ちよくだまされることが出来た。

今回のSF的な仕掛け(解釈)によって時間を操れるようになる?と言うオチはなんとなくもやもやする。

 

今回出てきたエイリアンの姿も劇中で「ヘプタポッド」(七本足)という名前で呼ばれる、タコ型である。昔の火星人のイメージを現代風にした様な形で、高度な知性と文明を持った宇宙人であるが、なんだか霧のような、液体のような所に住んでいて、墨で書いたような文字を吐き出す。どう見てもタコである。リドリー・スコットの「プロメテウス」にでてきたイカ星人に負けない不気味さである。

考えてみれば「プロメテウス」もファーストコンタクトを扱っていたが、今回の宇宙人はあれよりは穏やかで友好的だ。なんせその時間を見る能力を地球人に授けてくれるのである。

 

映画を観た帰り、コンビニで早速ばかうけを買って食べてみた。左右非対称なその不思議な形を観ながらビールを飲んだ。その”どこかで食べたような”薄い塩味は、とてもよくビールに合った。